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21/08/2008

医師達が意見照会に回答すること自体を断ってきた場合の法曹の取るべき道

 医療事故で患者が亡くなっているときに、捜査機関として専門医に鑑定意見を求めたところ、鑑定意見書を出すこと自体をことごとく断られた、ということになれば、捜査機関としては、四方八方手を尽くして、時に若干専門性にずれがあることに目を瞑ってでも、医師から鑑定意見をもらって、起訴をするか否かの判断をせざるを得ないでしょうし、その鑑定意見が医師の過失を示すものであれば、これに乗って起訴をせざるを得ないでしょう。「専門医の鑑定権が得られなかったから、嫌疑不十分として不起訴とする」という運用を行ってしまえば、当該分野の医師が一致団結して「警察・検察からの意見紹介には応じない」ということにしてしまえば当該分野の医師を起訴できなくなり、事実上治外法権を実現してしまうわけですから、それは捜査機関としては是認できないでしょう。といいますか、矢部弁護士の検察官時代はどうだったかわかりませんが、「専門医に照会したらみな過失ありとは言えないといっていました」ということであれば嫌疑なし又は嫌疑不十分で不起訴裁定書を書けると思いますが、「専門医に照会したら皆から回答を断られました」では嫌疑不十分の不起訴裁定書は書きにくいように思います。

 そして、医師の側の非協力にめげてはいられないというのは、医療過誤問題における患者側冬の時代を味わってきた弁護士にとっては、よくわかる話なんだろうと思います。当該事故において行われたと想定される医療行為が当時の医療としての標準を満たしていたのか否かを照会する窓口はありません。知人の医師に私的に意見を求めると、この点に問題があったと解説してくれるし、医学文献だって紹介してくれるけれども、では意見書を書いてくれとお願いすると、それは自分の立場が危なくなるとして拒絶されるということを実際に体験すると、「ああ、医師はこうやって庇い合いをしているのだ」と暗澹たる気持ちになるものです。だからといって、「医師達が意見書を書いてくれないので訴訟を断念しましょう」とはいいにくいので(専門医に意見紹介したところ、これは医学的には何の問題もないといっていましたので、訴訟をするのは断念した方がよいですよとはまだ言いやすいのですが。)、できる範囲内で訴状を書き上げ、医学文献を証拠資料として添付して訴訟を提起し、裁判所が選んだ鑑定人が、当該医療行為に問題があったとの意見を述べてくれることに期待をかけざるを得ないということになりがちです。

 そういう意味では、法曹として実務経験を有する者が議長となり、専門医を含めた医療関係者が委員となって、当該医療現場で何が行われたかを認定した上でそれが当時の医療水準を満たしていたかを評価する医療事故調査委員会が設置され、その意見書が民事および刑事の手続きに活用されるようになれば、不必要な起訴や訴訟提起を減少させることができる(その意見書の内容に不服がある人には裁判所でこれを争う機会を設ける必要がありますから、不必要な訴訟提起が0になることは無いと思いますが)とは思いますが、医療行為を原則法の支配の外に置けという過激な意見に一部の医師達が執着している限り、難しいのかなあという気がします。

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