きくりさんという方からのコメントを紹介します。普段はこういうことはしませんが、福島大野病院事件については、一方的な論調が多かったので、それと異なる意見は貴重だと思い、紹介することとしました。
冤罪に憤る人の多くは刑事実体法の廃止を主張しない」について
小倉弁護士のご意見に賛成する。
確定的故意ありの場合の刑事免責は、
多くの医師も考えては考えないとは思うが、一般的な業務上過失致死傷罪についての刑事免責、不法行為責任(債務不履行責任)からの民事免責は既に当然のように主張されている。行政罰制度の廃止にもやがては言及するだろう。
人の欲望は限りないもの。医療過誤事件の刑事免責ならず、診療報酬、賃金の引き上げ等の要求等も必ず起こしてくる。そうなれば医療費の増大から国民皆保険制度の維持も困難になるだろう。
決して、不当な要求には屈してはならない。
そもそも医師に限って、刑事免責されるべき理由というのは全く見当たらない。医師が刑事免責を主張する際の根拠にあげるのは、①医療の高度・専門性、②医療の不確実性、③萎縮医療を招来のおそれの3点である。
しかし、
①高度・専門的なのは医療に限らない。パイロットなども高度専門的技術を要する職業だが、他の職種では過失があり、死傷との因果関係があれば刑事罰を受けるのに医師だけが免責されるというのはおかしい。むしろ高度専門的だからこそ、より注意義務が課されているとも言える。医師だけを刑事免責してくれというのは子供じみた甘えである。
②確かに、医療には患者の体質等不確定要因が多いが、不確実性があると言っても、それなりに注意すべき事項は数多くある。また、過去の裁判事例を見ても注意義務を尽くせば結果を予見・回避できたと思われる事例は数多くある。
③萎縮医療は刑事訴追の結果ある程度起こるかも知れないが、これはいわば「結果」ないし「効果」であって、刑事免責の根拠にはならない。萎縮医療を回避するのは産婦人科等のリスクの大きい診療科に対する保険報酬の相対的引き上げ等、他の手段によって行うべきである。
福島大野病院事件が不当逮捕だと主張する医師の主たる根拠は、癒着胎盤という疾患が、産婦人科医が一生のうちで1度出会うか否か程度の非常に稀な疾患だからだという。
しかし、それは理由になるのだろうか。「産婦人科医が一生のうちで1度出会うか否か程度」とはどの程度の頻度を指すのかと言うと数万件に1件くらいの程度だという。そう聞くと仕方ないような気もするが、実はそうではない。
例えば、クローン病という消化器疾患がある。この病気は人口対10万人の有病率は5.85であり、約2万人に1人しかない疾患なのだが、実は医師国家試験の頻出問題になっており、毎年出題されている。医師国家試験にそれだけ出題されるのだから当然医師が知っておくべき基本的知識であるし、この疾患を見落としたり適切な処置ができず死傷の結果を招けば業務上過失致死罪に問われても止むを得ない。この他にも特定疾患に指定されている多くの疾患が同程度の頻度だが、全て医師国家試験で実によく出題される。つまり、この手の疾患がきちんと対応できなければ医師失格ということだ。
さらにずっと頻度の少ない疾患に総肺静脈還流異常症という疾患がある。この病気は新生児のできるだけ早い時期に発見し手術を行わなければ手遅れとなり患児は死亡してしまう。そこで、頻度は非常に低い極めて稀な疾患だが、医師国家試験に出題されている。つまり、医師にとって知っておくべき基本的知識とは、単に頻度の問題ではないということである。仮に頻度が低くても、見落とせば重大な結果を招く危険性のある疾患はきちんと履修しておくべきなのである。
癒着胎盤は子宮全摘の適応であって、不用意に剥離を進めれば大出血を招き死亡する恐れがある重大な疾患とされており、特定疾患並みの頻度なのだから、当然熟知しておくべき疾患であると言える。
なお、癒着胎盤は国家試験にあまり出題されなかったかも知れないが、これは医師国家試験が全科共通の試験であり、どうしても内科・外科からの出題が大半を占めるからであって、産婦人科を専攻する者が合格後、産婦人科医としての研修を積む上で当然習得しておかなければならない知識であることは言うまでもない。
つまり、医師らが言う不当逮捕の根拠は欺瞞に満ちたものと言わざるを得ない。数万件に1度という頻度が福島地検の起訴の不当性を主張する根拠になり得ないことを指摘しておきたい。福島地裁の裁判官におかれても医師らの欺瞞に惑わされることなく厳正な判断を望みたい。
医師は自分達の都合の良いようにしか言わない。都合の悪い事は仲間内でかばい合い隠匿しようとする。これは人間である以上、期待可能性がないことかも知れないが、一般社会人が医師の主張を聞くとき、いつも注意しなければならない点だと思う。
また、このようなかばい合い体質は今に始まったものではなく、残念ながらわが国の医師の習性となっている。それ故、刑事訴追は絶対に必要なのである。不当な要求に屈してはいけない。
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