医師不足の時ほど
自らの医療ミスによって患者を死に至らしめたことを躊躇せずに告白できるほどに、医療ミスによって患者を死に至らしめたことについての制裁が緩い(あるいは制裁が存在しない)制度のもとにおいては、その結果どのようにしたら同様の医療ミスを未然に防止できるかが明らかになったとしても、医師ないし医療機関としては、そのような医療ミスを未然に防止するための措置を講ずるインセンティブは生じないということになります。
もちろん、医療機関ないし医師に関して供給過多状態にある場合、医療ミスによる事故死を未然に防ぐための十分な措置を講じていない医療機関は市場競争において劣勢に立たされることになりますし、医療ミスによる事故死を未然に防ぐために必要な技量を身につけていない医師は、医療機関という雇用市場において劣勢に立たされることになります。しかし、医療機関に関して供給過小状態にある場合、医療ミスによる事故死を未然に防ぐための十分な措置を講じていない医療機関を需用者たる患者は選択せざるを得なくなるため、そのような医療機関は市場において淘汰されないということになります。そこでは、医療機関としては、医療ミスによる事故死を未然に防ぐために必要な措置を講ずることなく、その措置を講ずるのに要する時間をさらなる診療行為に充ててさらなる診療報酬を受け取ることが経済的に合理的だと言うことになります。また、医師について供給過小状態にある場合、医療ミスによる事故死を未然に防ぐために必要な技量を身につけていない医師でも需用者たる医療機関は雇用せざるを得ない(し、そのような医師を雇って患者が次々と死亡しても医療機関は市場において淘汰されないからマイナスとはならない)ので、そのような医師も市場において淘汰されないということになります。
従って、医療機関ないし医師に関して供給過小となっている時に、自らの医療ミスによって患者を死に至らしめたことを躊躇せずに告白できるほどに、医療ミスによって患者を死に至らしめたことについての制裁を緩くすることは、却って医療の質を引き下げることになります。従って、医師不足の時ほど、医師を免責せよとの主張は聞き入れてはいけないと言うことになります。
【追記】
矢部善朗弁護士による下記のようなかわいそうな内容からなるエントリーからトラックバックがきています。
小倉弁護士のこのエントリを読むと、小倉弁護士は、医師の皆さんは矜持なんてものは最初から全然持ち合わせていない、とお考えのようです。
これって、すごい侮辱だと思うんですけどね。
一般に、法的制度を考えるに当たっては、特定の集団に属する人々がみな善意の固まりであるということは想定しないわけで、その集団に属する人がみな善意の固まりっていうわけではないという前提で、どういう法的システムがよりよいかということを考えるということ自体は当たり前であって、これをその集団に対する「侮辱」として封じてしまうと、その集団に属する人々がみな善意の固まりっていうわけではなかった場合に大変なことになりがちです。
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