法令用語の使われ方くらい調べればいいのに。
「『標準的な医療から著しく逸脱した医療』ってそんなにオープンな文言ではないと思うのですが」というエントリーに対して、矢部先生から奇妙な批判を受けています。
まずは、日本産科婦人科学会の岡井崇理事の
正当な業務の遂行として行った医療に対しては、結果のいかんを問わず、刑事責任を追及することには反対。この考えは現在も将来も変わらないと思う。
という発言の解釈についてごちゃごちゃと言っているわけですが、この根拠たるや、法律家の通常の感覚に従ったとしても、100人中99人は、「間違った型の血液の輸血行為」を「正当な業務の遂行として行った行為」とは考えないと思います
という矢部先生の主観でしかありません。それを無理矢理正当化するためなのでしょうか、
但し、一般人ではなく法律家の一人として私の認識は間違っていると言いたい法律家がおられましたら、本名と所属を明記の上、投稿願います。明記なき投稿は法律家の投稿とは認めません。
ということを矢部先生は言い出しました。まあ、ああいう匿名さんにやりたい放題にさせているブログのコメント欄に実名でコメントを投稿する人は少ないですし、特に匿名の医療系ブロガー・コメンテーターの品の悪さ、陰湿さというのはすでに広く認識されていますから、上記のような呼びかけに応ずる者はいずれにせよほとんど現れないだろうというのは予想できるところですので、それを受けて、「ほら、法律家はみな私の解釈を支持しているのだ」というお積もりだったのかもしれません。で、コメント欄で「公平を期するためには,矢部先生のような解釈をされる法律家についても,本名と所属を明記の上、投稿願った方が良さそうです。」と投稿させていただいたところ、上記の意図が外れたのか、「小倉先生からは、内容面における反論はないようですので」云々という話をされてしまいました。あのエントリーを見て、私に内容面における反論を求めていると解釈せよと言われても無理がありますし、09:06のエントリーに対してその日の13:46 に「小倉先生からは、内容面における反論はないようですので」といわれましても、「今日は平日ですよ」としか言いようがありません。
この発言は、それが語られた「文脈」からすると、医師が刑事責任を追及される場合を現行の法制度よりも限定的なものにしたいという「意図」をもってなされたとみるのが自然です。そうだとすると、ここでいう「正当な業務として行われた医療」とは「過失なくして行われた、客観的に見て、現在の標準的な医療水準を満たした医療」という意味にとらえるべきではないでしょう。むしろ、岡井理事は、医師等の医療従事者が正当な業務として行う医療活動の一環として行った医療行為については、これに起因して「患者の死」等の結果が生じたとしても、(過失の有無を問うことなく)刑事責任を問うべきではない」ということが言いたかったのだろうと思います(その意見に賛成するか反対するかはともかくとして)。この方が「として行われた○○」という言い回しの一般的な用法とも合致しています。
そうだとすれば、医師等の医療従事者が正当な業務として行う医療活動の一環として輸血を行う際に、クロスチェックや診療録のチェック等を怠り、同型の血液を輸血しているものと軽信して、異型の血液を輸血したような場合についても、その刑事責任を追及することに岡井理事は反対する趣旨なんだろうと解される可能性は十分にあります。
次に、日本小児外科学会の河原崎秀雄理事の
警察への通知は、『犯罪の可能性が高い』と委員会が判断したものに限定されるべき。
との発言について、私が
現行刑法では、軽過失で人を死に至らしめても犯罪ですから、その場合、却って通知義務の範囲が拡張されます。ここでの「犯罪」を「殺人または傷害致死」という意味に善解するとなると、医療機関は、医療従事者の「主観」まで調査した上で警察に通知するか否かを判断しなければならないことになります
と言及したことについても、ごちゃごちゃと述べています。
「事故」は「事件」とは区別されており、法律家的には「故意がない場合」であることが常識です。そして、「殺人または傷害致死」は故意犯です。どなたか、「殺人事件」を「事故」と表現する方はおられますか?
と矢部先生は述べておられます。私へのいちゃもんの根拠ってほとんどそこだけです。しかし、例えば、「損害保険契約ハ当事者ノ一方カ偶然ナル一定ノ事故ニ因リテ生スルコトアルヘキ損害ヲ填補スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス 」(商法629条)にいう「事故」は「故意がない場合に限定される」という見解はおそらく一般的ではありません。また、「故意に障害又はその直接の原因となった事故を生じさせた者の当該障害については、これを支給事由とする特別障害給付金は、支給しない。」(特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律第12条)というときの「事故」は、故意に招致されたものを指すとしか理解しようがありません。さらにいえば、羽田沖日航機墜落事故は、故意犯ですが、「事故」と表現されています。矢部先生は、「「事故」は「事件」とは区別されており、法律家的には「故意がない場合」であることが常識です」との「常識」を、どこで身につけられたのでしょう。
矢部先生独自の「常識」を除外して考えれば、
河原崎理事の発言報道では、記事を読んでいただければ明らかですが、河原崎理事は上記引用部分に引き続き「医療事故死に該当するかの基準だが、臨床の現場ではこの基準がもっとも大事な判断基準になるので、早く公表してほしい。」と発言していることから明らかなように、河原崎理事の発言は「医療事故」を念頭に置いたものです
としても、その上で、そのような医療事故死の中でも医療従事者に故意がある可能性が高いと委員会が判断したときだけ、警察への報告義務の対象とすることにしてほしいと河原崎理事が求めていたと解釈することは、別におかしくはありません。
むしろ、ここでいう「犯罪」は「故意犯」に限定されないとすると、河原崎理事は、業務上過失致死の疑いがあるという程度で報告義務を負わされるのは受け入れがたい、業務上過失致死の可能性が高いと委員会が判断した場合に限定してほしいとの意向を示したという話になるわけですが、本当にそういう趣旨で受け取っていいのでしょうか。そうだとすると、「標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡又は死産の疑いがある場合 」に限定して警視総監又は道府県警察本部長への通知義務を負わせるとする医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案より、通知義務の範囲が拡大されると思うのですが。それって、却って、この発言がなされた「文脈」に反しませんか。
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» 辞書くらい見ればいいのに [モトケンの小倉秀夫ヲッチング]
今回は、la_causette の 法令用語の使われ方くらい調べればいいのに... [Lire la suite]
Notifié le le 04/08/2008 à 08:49 PM
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