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21/07/2008

本当にそう信じているのですか?

 矢部先生や他の医療系ブロガーの方々が、医療側から主張されている刑事免責は、医療行為としての妥当性が問題になる程度に専門的な領域における検察の排除を意味するに過ぎず、従前業務上過失致死罪で処罰されてきた医療ミスについてまで不可罰とすることまで求めているものではないと本気でお考えなのであれば、「医療行為(救命活動)についての刑事免責」だとか「業務上過失致死罪の廃止」等の言い回しは誤解を生むだけだからやめるように何度でも呼びかけたらいいのではないかと思うのです。

 全国医師連盟の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟のシンポジウム」でも、世話人である黒川衛先生により、

超党派議連の皆さんは、議員立法を真剣に考えてください。
議員立法の内容は、二つです。

■医師に限らず、救命活動における刑事免責を確立してく
ださい。
■損害賠償に変えて、無過失保障制度、患者家族救済制度
を国は設立して下さい。

との呼びかけがなされているわけですが、ここでいう「刑事免責」を医療行為としての妥当性が問題になる程度に専門的な領域における検察の排除と理解せよと出席国会議員に要求しても、それは無理というものです。実際、このシンポジウムでパネリストを務めた橋本岳衆議院議員は刑事免責について、「一つの極端な意見と思う。国民全体の理解を得るのは難しいのでは」と述べたとされており、おそらく文字通りに受け止められ、「極端な意見」として撥ね付けられたものと思われます。

 といいますか、矢部先生も法律家なのだから、従前業務上過失致死罪で処罰されてきた医療ミスについては従前通り処罰される一方、医療行為としての妥当性が問題になる程度に専門的な領域における検察の排除を実現するような改正案をお示しになればいいのに、と思わなくもありません。「刑事免責」を声高に主張する一部の医療系ブロガー等が真に望んでいるのがその程度のものだとすれば、それを法律家が正しく法律的な表現に置き換えてあげれば、誤解を生まない要求内容に収斂するはずではないですか。


 なお、Hiroyukiさんという方から、

>一部の医師等は、「すべての医療ミスを免責せよ」と主張していると解する方が素直かと存じます。
そうです。私も医師ですが、そんなことを主張しているのは小倉さんがおっしゃってる通り一部だと思います。どこの世界にでも出来に悪い人がいますからね。
そんなくだらない主張に対するコメントをするのはおやめになって、多くの医師が感じている、「医学的に妥当な手技が行われているにもかかわらず不幸な結果になってしまったケースは刑事という手続きをとるべきではない」という意見に対するコメントが、是非我々医師としても聞いてみたいです。

とのコメントをいただきました。

 刑事という手続きをとるべきではないという言葉がどの程度のことまでを意味するのか不明ですが、「刑事罰を科すべきではない」という意味であるならば、適切なインフォームド・コンセントが得られており、医学的に妥当な手技が行われているという場合には、それが当時の医師の倫理基準を満たしている限り、現行法でも刑事罰の対象とはなっていません。「当時の医師の倫理基準を満たしている限り」という限定は、学内での倫理委員会の承認等を得ずに行われた臓器移植等を想定しています。

 刑事という手続きをとるべきではないという言葉が、そもそも「警察、検察等は捜査を行うべきではない」という意味で用いられているのだとすれば、それは無理だというよりほかありません。「医学的に妥当な手技が行われてい」たか否かは、捜査を行うことで初めてわかることだからです。

 刑事という手続きをとるべきではないという言葉が、刑事裁判手続に乗せるべきではないという意味で用いられているのだとすれば、それを法改正により実現することは不可能ですが、検察官が医師を起訴する前に、医療現場で何が行われたか、そしてそれは医学的に妥当であったのかに関する正確かつ十分な情報を捜査担当検事に提供する仕組みを作り、運用することで、これを相当程度防止することができます。厚労省が創設しようとしている事故調査委員会などはそういう意味で役に立ちそうだと思うのですが、医学的に妥当な手技が行われていなかったとの報告書が作成されたとしても医師を刑事免責するとの保証が得られなければ賛同できないとして、一部の医師の反対を受けているようです。

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