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19/07/2008

NATROMさんからみた藁人形って何?

 前回のエントリーに対し、NATROMさんという方から、「相変わらずわら人形。「すべての医療ミスを免責せよ」と主張している人がどこかにいるのなら有効な主張だけど。小倉氏の脳内にはいるんだろうな。」とのはてなブックマークコメントをいただきました。

 そこで、「すべての医療ミスを免責せよ」と主張している人がどこかにいるかを見てみることとしましょう。

 「元外科医のブログ」における「医師らの刑事免責確立を」というエントリーをみると、立法による刑事免責は現場の医療人から見れば最低限の要求だろう。とあり、刑事免責の対象について特段の限定は付されていません。そもそも過失犯に対して刑罰を科しても社会に対する予防効果は全くない諸外国では医療事故や航空事故、原子力発電所などの大きなシステム事故は刑罰を科すより当事者に真実を語らせる方が社会にとって遙かに有用なことと考えられている。過誤を犯した人間に対するペナルティは免許停止などの行政罰再教育などの方が適切である。結果が悪ければ個人に刑事責任を追究するのではリスクのある業務が成り立たないと言うことは自明のことであとの文章からすると、少なくとも業務上過失致死罪に関しては「全ての医療ミスを免責せよ」と主張しているように思われます。

 うろうろドクターさんの「ボールペン作戦で『医師の刑事免責確立を』 」というエントリーでも、産科を始めとする急性期医療を守るためには、刑事免責は絶対条件です。とされています。刑事免責を受けるべき場面は「急性期医療」に限られるのかもしれませんが(善解すればそうだというだけで、文面からは、「急性期医療」をダシにして、全ての医療活動の全ての医療ミスの刑事免責を求めているとも読むことができます。)、内容としては、不確実性の高い合併症に限定して刑事免責を求めているというわけではなさそうです。実際、うろうろドクターさんは、こちらのエントリーでは、われわれは別に、私文書偽造や詐欺、殺人や障害罪などを免責しろといっている訳ではないのです。業務上過失致死傷罪を廃止して欲しいのです。と述べています。これは、「すべての医療ミスを免責せよ」と主張している ものと受け取るのが普通です。

 ssd's Diaryの「経済行為としての医療紛争の考察2」というエントリーでは、故意犯以外は、刑事にするのは、論外です。と述べられています。これもまた、「すべての医療ミスを免責せよ」との主張だと思われます。この記載に引き続いて、医療関係者を刑事免責をしろという主張に対して、「医療関係者を特別扱いするわけにはいかない」という反論があります。しかし、よく考えてみると、中学生あたりに説教しているときに「なんで、こんなことしたんだ。」 「みんなやってるじゃん」並に頭の悪そうな言明です。とありますので、医療関係者を特別扱いしようとしない人を中学生並みに頭の悪い人だと思っているのでしょう。

 また、以前ご紹介した、全国医師連盟が現在の医師達の気持ちを代弁する声として紹介している準備委員会会員による「産科崩壊阻止のための対策要望書」では、医療の結果に付き、刑事責任免責として下さい。これは全ての科に必要です。出産には産婦人科、麻酔科、外科、小児科、内科が関わり合いますから、産科だけでは無意味です。 最近は外科、救急医療が崩壊中ですから、必ず必要です。としています。これは、そのような医療の結果を引き起こした原因がどのようなものであるのかを問わず、一律に、 刑事免責を求めているように読めます。そして、それは現在の医師達の気持ちを代弁していると、全国医師連盟では考えているということのように思われます。

 また、医療介護CBニュースの記事によれば、日本脳神経外科学会は、「犯罪」以外の医療行為への刑事免責を確立するよう、「検察庁、警察庁と文書を交わしてほしい。と要望したとのことです。現行法では業務上過失致死罪も立派な犯罪なので上記要望はトートロジーではないかと思うのですが、ここでいう「犯罪」を「故意犯を指すもの」と善解した場合には、(過失による)「すべての医療ミスを免責せよ」と主張しているように読めます。

 また、特定非営利活動法人医療制度研究会の中澤堅次さんは、「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案―第三次試案―」の感想」という文章の中で、故意で無い限り救命の意図の中で起きる 医療事故の刑事免責は臨床側には譲れない一線です。 と述べておられます。医療活動にかこつけて故意に患者を死なせるというのはもはや「医療ミス」ではありませんから、中澤さんのご意見もまた、「すべての医療ミスを免責せよ」と主張しているように読めます。

 「ACTION 日本を動かすプロジェクト|テーマ2・医者不足の真相|とても大事な「制度作り」です。大いに注目しましょう。(第8回)」というページのコメント欄に寄せられた「ある内科医」さんの医療事故での「医療者の刑事免責」は、「国民の安全」を守る為に必要な事です。それが医療事故の減少につながるのです。というコメントも、 「すべての医療ミスを免責せよ」と主張しているように読めます。

 ちょっとGoogleで検索しただけでわんさか出てくるものを、あたかも実際には存在せず、私が脳内で作り上げたに過ぎないもののように言われても困ってしまいます。

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Voici les sites qui parlent de NATROMさんからみた藁人形って何?:

» 医療側からの刑事免責の主張をどう理解すべきか [元検弁護士のつぶやき]
 まず、前提として犯罪とは何かを簡単に説明します。  犯罪とは、「構成要件」に該当し、「違法」かつ「有責」な行為と定義されています。  構成要件とは刑罰法規のこ... [Lire la suite]

Notifié le le 19/07/2008 à 08:43 PM

» [law]医療過誤における「刑事免責」問題について小倉弁護士のご意見に賛成します。 [BI@K accelerated: hatena annex, bewaad.com]
医療過誤に関して、小倉弁護士が次のような医療側の主張を列記したところ、 「そもそも過失犯に対して刑罰を科しても社会に対する予防効果は全くない」 「業務上過失致死傷罪を廃止して欲しい」 「故意犯以外は、刑事にするのは、論外です」 「故意で無い限り救命の意図の中... [Lire la suite]

Notifié le le 25/07/2008 à 04:07 AM

» Re:すべての医療ミスを免責せよ? [粉塵爆発電網記憶]
NATROM氏のブログエントリ「すべての医療ミスを免責せよ」に代表される一連の医療と法的責任に関する議論を読んでいて、いくつか論点が思い浮かんだので書いておこう。 関連する... [Lire la suite]

Notifié le le 28/07/2008 à 02:29 PM

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