刑事罰は業界を崩壊させるのか
ある職業に属する者が業務上過失致死の疑いで起訴されたが、同業者としてみたときに検察官が要求する注意義務の程度が不当に高く設定されているように思われると判断した場合に、同業者がやるべきことは、弁護費用や裁判係属中の生活費等の支援や、当該状況における注意義務のレベルについての同業者としての見解をまとめて弁護人に提出するなどの裁判支援等であって、当該職業の遂行過程において人を死に至らしめた場合を包括して刑事責任を免責せよと要求することではないし、当該職業に属する者を起訴することはけしからんと叫ぶことでもないし、その職業に属する者が行う職務の適否を判断する能力をもっているはずがないと裁判官を小馬鹿にすることでもないでしょう。
実際、交通事故により人を死傷させた場合には懲役・禁固刑を含む刑事罰に処せられる危険があり、個別事案においては運転者の注意義務の程度が高く設定されているものがあるとしても、交通事故における死傷事故については刑事免責せよ(あるいは、故意または故意に匹敵する重過失以外は刑事免責せよ)という見解は国民の間に広く普及しないし、だからといって、総体的にいえば、刑事罰が怖いので自動車を運転しないという人の数が著しく増加しているという事実はありません。
また、長距離トラック運転手やバス運転手等が、過酷な労働条件故に注意義務を十分に尽くすことができず死傷事故を発生されたという事案が起こったときに、運転手を刑事免責してやれとか、被害者が損害賠償請求をすることはけしからんという声は、国民一般からはもちろん、同業者からも起こりません。長距離トラック運転手たちが「私たちはこのような過酷な条件で物流業務を担っているのだから、過労故に事故を起こすことは避けがたい。私たちを刑事免責しないのであれば、私たちは今の仕事を辞めざるを得ない。そうしたら、物流崩壊で困るのは一般国民である」という言い方をしたら相当の反発を受けるのは必定だし、実際彼らは賢いので、そのような言い方はしません。そのような言い回しをする業種は、とりあえず一つしか思い浮かびません(もちろん、そのような言い方をするのは、その業種に属する人の中でもごく一部でしょうけど)。
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