2008年06月16日 (月)スタジオパーク「緊急地震速報をどう生かすか」
《前説》
先週の土曜日(14日)に起きた「岩手宮城内陸地震」で、気象庁は緊急地震速報を発表しました。緊急地震速報は生かされたのでしょうか?
土曜の朝にでましたから、テレビで見た人も多かったのではないでしょうか?
《山﨑》
緊急地震速報は、去年の10月から一般に発表されるようになり、今年、4月の沖縄県の宮古島近海の地震と5月の茨城県沖の地震でも発表されましたが、発表が深夜でした。
3回目の今回は、土曜日の午前8時43分頃でした。気象庁は本震だけでなく、その後の2つの大きな余震で合わせて3回、緊急地震速報を発表しました。
このうち午前8時43分頃の本震では、気象庁は地震を検知してからおよそ4秒後に発表しました。これを受けてNHKはテレビとラジオで速報しました。総合テレビなどでは「週刊ニュース」の放送中でした。
緊急地震速報が発表されてから大きな揺れが到達した間のおよその時間を表にしますと、震度6強の最も強い揺れを観測した岩手県奥州市と宮城県栗原市は、震源に近かったことから間に合いませんでした。
しかし、その周辺の震度5弱を観測した宮城県仙台市では揺れる15秒ほど前に、また宮城県石巻市では12、3秒前に情報が伝えられました。
《アナ》一番揺れが激しいところで情報が間に合わなかったんですね?
《山﨑》
残念ですが、それが緊急地震速報の技術的な限界です。それは速報の仕組みを知ってもらうとわかると思います。
大きな地震に見舞われたとき、最初にガタガタという小さな揺れがあって、その後にユサユサといった大きな揺れがきたのを経験した人が多いと思います。これは地震が起きたときに、揺れは小さいけれども速度が早いP波と速度は遅いものの揺れが大きくて被害をもたらすS波の2つの地震波が発生することからおきます。
緊急地震速報はこの2つの地震波の時間差を利用して、地震の発生後になるべく早くP波をとらえてS波の大きさを推定し、大きな揺れがきそうな地域に情報を出すものです。
この仕組みからわかるように、震源近くでは2つの波が余り時間をおかずに、ほぼ同時に襲ってくるために、緊急地震速報は間に合いません。およその目安として、震源から60キロくらいまでの範囲では、もともと間に合わない情報なのです。また、揺れる前の余裕といってもせいぜい数秒から数十秒です。
《アナ》そんな短時間で役に立てることができるのでしょうか?
《山﨑》
仙台空港では緊急地震速報を受けてから、滑走路の安全が確認されるまで、着陸予定の航空機を上空で待機させる措置をとることができたということです。
今回の地震でどんな受け止め方をされたかはまだ調査が行われていませんが、去年7月の新潟県中越沖地震の時の結果が参考になると思います。
このときにも、震源に近い震度6強の新潟県柏崎市や刈羽村は間に合いませんでしたが、震度4の長野県松本市や震度3の上田市では15秒から20秒ほど前に、また震度3の東京でも40秒ほど前に伝えられました。
その際、上田市丸子地区では有線放送で各家庭に情報が伝えられ「身構えたり、机の下にもぐりこんだ」人がいました。松本市役所では庁内放送が行われ職員は机の下に隠れ、たまたま訪れていた市民には警戒が呼びかけられたということです。
さらに東京では、東急や東武などの私鉄が列車の無線を通じて運転手に指示が届き、列車のスピードを落としたり、停止したりといった措置がとられました。また、東京のホテルの中には、地震による閉じ込めを防止するためにエレベーターが最寄りの階に自動停止したところがありました。
《アナ》地域や職場などによっては役立つんですね?
《山﨑》
事前に準備をして、上手に利用すれば効果が期待できそうだといえると思います。企業や多くの人が集まる施設などでの取り組みを急いで欲しいと思います。
また、家庭にいる場合には頭を保護して家具やガラスなどから離れて、机の下などに隠れることです。屋外の場合は、ブロック塀や看板、がけなどから離れて身の安全を確保します。人が大勢いるデパートや劇場などでは従業員の指示に従うのが基本ですが、指示がない場合には落ちてきたり崩れてきたりしそうなものから離れて身構えてください。
さらに自動車を運転中の場合は、周囲の車が情報を聞いていない場合がありますから、ハザードランプをつけるなどして周りに注意を促してから、ゆっくり速度を落としてください。
大切なことは、どこにいても『落ち着いて、身の安全を確保する』ことです。
《アナ》そういうことをみんなが知っていないといけませんね?
《山﨑》
緊急地震速報の利用を進めるにあたっての最大の課題が、この情報の仕組みと情報を聞いた際の対処の仕方を、できるだけ多くの人に知ってもらうことです。
気象庁には、情報の精度を高めたり情報を発表するまでのスピードを早める努力とともに、情報の周知徹底を再度求めたいと思います。
投稿者:山﨑 登 | 投稿時間:13:59