2008年07月14日 (月)時論公論「山あいの地震防災対策を急げ」~岩手・宮城内陸地震から1ヶ月~


《金子キャスター 前説》
 岩手・宮城内陸地震の発生から、今日で1ヶ月です。この地震では、日本のどこにでもある市町村とその周辺の山あいの地域が大きな被害を受け、これまでに13人が亡くなりました。
今晩は、山あいの地域の地震防災対策について、山﨑解説委員がお伝えします。

 

《市街地で進む復旧》

 山あいの地域が地震で大きな被害を受けたのは、今回だけではありません。2004年の新潟県中越地震や去年の能登半島地震など、最近の地震ではそうした地域の被害が目立ちます。
そこで、今晩は、山あいの地域の地震防災対策を考えます。

 この1ヶ月の間に、被災地の復旧は急ピッチで進められました。地震から3日後の6月17日にはほとんどの小中学校が授業を再開し、26日にはほとんどの家庭で水道が使えるようになりました。また今月11日には、宮城県栗原市の仮設住宅の一部で入居が始まり、岩手県奥州市でも8月上旬には完成する見込みです。
こうして市街地や住宅地の復旧が比較的スムーズに進んでいるのは、これまでにわかっている住宅の被害が全壊が23棟、半壊が65棟と、マグニチュード7.2の地震の規模からみると比較的少なくなっているからです。

《山あいで大きな被害》

その一方で、山あいの地域ではいまだに被害の全貌がつかみきれない状況です。
大規模な山崩れや土石流があちこちで発生し、釣りや山菜取りに出かけた人など10人の行方が未だにわかっていません。
また、一帯には主なものだけで15箇のせき止め湖ができていますが、栗原市の迫川上流の湯浜地区のせきとめ湖は、今月の7日になって、ようやく専門家が現地に入ることがでたほどです。調査の結果、土石流などが発生する危険な状況ではないということですが、梅雨末期の大雨などが心配されるだけに慎重な監視が必要です。

また道路もあちこちで被害を受けました。宮城県や岩手県から秋田県に抜ける国道398号線や342号線には大きな亀裂が入ったり、橋が落ちたり、人の背丈ほどもある大きな石が崩れ落ちたりして通行ができなくなっています。

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こうした道路の寸断で、二つの県の山あいの集落で暮らしていた人たち、175世帯485人には避難勧告や避難指示が出されています。
今回の地震が浮き彫りにしたのは、こうした山あいの集落を地震からどう守っていくのかという重い課題です。

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《地震直後の被害把握》

 山あいの地域には、地震の直後から被害の把握と救助などの対策の難しさがありました。
 道路が寸断され通信が途切れ、各地で孤立が発生しました。宮城県栗原市だけでも、いわかがみ平や栗駒耕英地区などで凡そ200人が取り残されました。
栗原市では地震の発生直後から市長や防災担当者が次々に集まって情報収集にあたりましたが、山あいの大きな被害はなかなかつかめませんでした。発生から5時間ほど経って、副市長がヘリコプターで上空から全体状況を見て、初めて被害の大きさがわかったといいます。
栗原市の佐藤勇市長は「山あいの被害を把握するためには、ヘリコプターの活用と通信手段の確保が何よりも重要だ」と話していました。

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《中山間地の集落の問題》

 山あいの集落の防災対策の必要性は、2004年の新潟県中越地震や去年の能登半島地震でも指摘されました。
 内閣府の調査では(平成17年8月)、全国には地震後に孤立する可能性のある集落が1万9238箇所もあります。

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この中には、宮城県で250箇所、岩手県で280箇所の集落があって、今回孤立した集落も含まれています。
こうした集落に共通しているのは、規模が小さく、過疎と高齢化が進んでいることです。中には、人口に占める65歳以上の人の割合である高齢化率が50%を超え、冠婚葬祭など共同体としての生活を維持していくことが難しい、いわゆる“限界集落”と呼ばれるところもあります。
地震災害は、地域が潜在的に抱える問題を一気に表面化させ、それを加速させてしまいます。地震災害後に、高齢者対策の必要性や地域の農業をどう維持していくかという問題がにわかに浮かび上がるのはこのためです。

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《短期的な対策の視点》

 では、こうした地域の問題にどう対処していけばいいのでしょう。短期的な課題と長期的な課題に分けて考えたいと思います。
 まず、短期的には災害時の通信と24時間ヘリコプターが使える体制の確保です。

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 全国的にみて、なかなか対策が進まないなか、静岡県の取り組みが参考になると思います。静岡県には孤立の可能性のある集落が377箇所ありますが、今年度から3年計画で衛星携帯電話の整備を進めています。県が費用の3分の1を補助し、これまでに237箇所の整備が終わりました。また、自衛隊に協力してもらって、実際に集落にヘリコプターで離着陸し、操縦士の観点から地形などをチェックしています。
 さらに、都市部の自治会とは違った備品の配備を検討しています。縦3.6メートル、横5.4メートルのシートに地区の名前とけが人がいるとか食糧が欲しいなどといったメッセージを書いて、上空から見やすい場所に置いてもらうという烽火のようなアイデアです。最新の機器に慣れない高齢者でも、シートを広げたり、ペンキで文字を書いたりするのであれば使いやすいのではないかというのです。
静岡県の防災担当者は「東海地震などが起きると、沿岸部に大きな被害が出ることが予想され、山あいの集落については、どこの救助を優先させるかを判断できるようにしておく必要がある」と話していました。
 
《長期的な対策》

 こうした短期的な対策を進める一方で、私たちが考えなくてはいけない長期的な課題は、山あいの地域が支えてきた農業や林業、それに多くの人が故郷の風景として思い描く里山の役割を、今後どうしていくのかということです。

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今回の被災地には水田がありますし、高原イチゴの栽培も行われていました。酪農をしている人や岩魚の養殖に取り組んでいる人もいました。その生産物の多くが都会に出荷されています。
考えてみれば、新潟県中越地震の被災地も米と錦鯉の産地でしたし、能登半島地震の輪島市の集落は漁業の盛んなところでした。
さらに、そうした地域が都市部の水源林を守っていますし、大雨が降った際に河川が一気に増水しないようにする保水力を保ってもいます。
効率を優先して考え、過疎と高齢化の地域を守ることに疑問の声を上げる人がいますが、地震が起きるたびに山あいの地域から人がいなくなり、国土が荒廃するのを放置していいわけがありません。
新潟県中越地震のあと、長岡市に暮らして山古志地区に農業に通うというかたちで地域づくりを進めている人がいます。都市部の人と山あいの地域の人たちが交流しながら、そうした地域の暮らしと国土を守っていく仕組みを考える必要があると思います。

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《まとめ》

 被災地では行方不明の人たちの捜索活動が続く一方で、被災者の新たな生活が始まろうとしています。
 阪神・淡路大震災が都市の地震対策と都市の暮らしに課題をつきつけたように、今回の地震は日本の国土の70%を占め、どこにでもある町や村とその周辺の山あいの地域が大きな地震に見舞われたときに、どんな課題に立ち向かう必要があるかを考えさせていると思います。
 
                            

投稿者:山﨑 登 | 投稿時間:23:41

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