2008年06月23日 (月)時論公論「岩手・宮城内陸地震 現地を歩いてわかったこと」
《前説》
岩手・宮城内陸地震は、発生から今日で10日になります。現地を取材した山﨑解説委員がお伝えします。
《住宅被害が少なかった》
私は、地震発生から3日後に被災地に入りました。
被災地では今も10人が行方不明のままで、今日も捜索が行われました。
今回の地震被害の大きな特徴が、山あいで大規模な土砂災害が起きたことと市街地や住宅地の建物被害がこれまでの地震に比べて少なかったことです。
今日は、そうした被災地の取材報告とともに、今後の課題を整理したいと思います。
震度6強を観測した宮城県栗原市に入って驚いたのは、市街地や住宅地の建物に外から見る限り、大きな被害がないように見えたことです。市役所前の信号機も動き、緊急車両や救援物資を運ぶトラックなどで渋滞するといった光景もありませんでした。
道路が寸断され、地区の人たちが避難している山あいの地域を除いて、かなり広い範囲を見て回りましたが、簡単な作りの作業小屋や農業用ハウスなども倒壊していませんでした。
これまでにわかっている住宅の被害を、最近の主な地震と比べてみると、今回は被害が少ないことがわかります。
今日現在の総務省消防庁のデータで、今回の地震による住宅の全壊は4棟、半壊は7棟です。
同じ震度6強を観測した去年の新潟県中越沖地震は、全壊が1319棟、半壊は5621棟、能登半島地震は、全壊が684棟、半壊が1733棟でした。また、4年前の新潟県中越地震は、最大震度が7でしたが、全壊は3175棟、半壊は1万3808棟でした。
《なぜ住宅被害は少ないのか》
なぜ、住宅や建物の被害が少なかったのかは、建築や防災の専門家にとっても大きな疑問で、今後の詳しい調査や分析を待たないといけませんが、現在考えられている理由を整理しておきます。
1)一つは地盤の動きです。今回の断層は、山側が東側に乗り上げる逆断層と呼ばれる動き方をしました。一般的にいって乗り上げたほうの被害が大きくなりますが、乗り上げた山側は住宅の少ない地域でした。
2)2つ目は、住宅を壊す地震波の時間が短かった可能性があることです。
阪神大震災では、周期1秒ほどの住宅を壊しやすい地震波の存在が指摘されましたが、今回はこの波の時間が短かった可能性があるといいます。
3)3つ目は、住宅の構造です。
被災地は雪が多く、地元の木材を使って太い柱の丈夫な家を作ってきました。そのうえ瓦屋根は少なく、トタンを葺いた軽い屋根が目立ちました。
こうしたことから、住宅地の多くの人たちは自宅で暮らしています。
81歳の男性は「ドンドンと突き上げるような揺れが下からきた。家具や棚に載っていたものや食器などは、みんな落ちた」と言っていました。平成7年に作ったという家は、よく見るとコンクリートの地盤にひびが入ったり、土台と建物の間に隙間ができていました。今後、こうしたよく見ないとわからないところで、住宅が被害を受けていないかどうかも調べて欲しいと思います。
地域は断水になっていましたが、この男性の家には地下水をくみ上げている水道があります。近所の83歳の女性が、一輪車で水をもらいにきました。女性の家は風呂の壁が一部ではがれたということですが「家が壊れなくて助かった。あとは水道が早くなおって欲しい」と話していました。高齢者にとっては水の確保は重労働です。水道の復旧を急いで欲しいと思いました。
《山あいの土砂崩壊》
その一方で、山あいは大規模な土砂災害に見舞われました。
最も大きな山崩れを、宮城県栗原市の中心部から20キロほどのところの荒砥沢ダムから見ることができます。途中から山道を歩いていくと、アスファルトの道路にはひびが入り、大きな亀裂もできていました。山あいほど揺れが激しかったことを実感しました。
ダムから見ると、山の斜面が一面に崩れ落ちていました。長さは凡そ1500m、幅は800m、崩れた土砂の量は5000万立方メートルから1億立方メートルとみられ、最近の土砂崩壊としては最大級です。
遠く栗駒山の山頂近くには雪が残っていました。行方不明になっている人たちの捜索現場は、この大量の雪解け水によって土砂が泥のようになって、活動を難しいものにしています。
《土砂崩壊の要因とせき止め湖》
専門家が指摘している大規模な土砂崩壊の主な要因は3つあります。
1)一つは、このあたり一帯が栗駒山の火山灰などの噴出物によってできた比較的やわらかい地盤だったことです。
2)二つ目は、雪どけ時期の終わり頃にあたり、地盤に大量の水が浸み込み、滑りやすくなっていたことです。
3)三つ目は、震源が山あいだったことから、下から地盤を突き上げるような揺れがあったことです。
現地の災害対策本部や住民が最も心配していたのは、崩れた土砂が河川の流れをせき止めた「せき止め湖」が決壊しないかということでした。
せき止め湖は、これまでに宮城県の迫川と岩手県の磐井川の流域に、主なものだけでも15ヶ所が確認されています。
このうち、下流への影響が大きいとみられているのが岩手県一関市市野々原地区のせき止め湖ですが、このせき止め湖について、国土交通省が地震が起きる前と地震後に行った航空機によるレーザー測量を比較したところ、崩れた土砂は、凡その長さが300メートル、幅が200メートル、厚さは30メートルから40メートルもあって、川を埋めていることがわかりました。
万一、これだけの土砂が下流に流れ下ったら大災害です。そこで、現場ではポンプで上昇する水を排水するとともに、迂回する水路を作って水を流す工事が進められていました。
しかし、多くの人の不安が不確定な情報となって広がりました。
6月18日には、せき止め湖が決壊する恐れがあるという情報が流れ、行方不明者の捜索活動が中止され、住民に避難が呼びかけられました。その後、土砂の専門家が調査したところ、差し迫った危険はないという見解がだされました。
現地は、二次被害に対する情報に敏感になっています。まして、これから梅雨の大雨や台風がきたりするシーズンです。
国土交通省は、現地に派遣している土砂災害の専門家と連絡を密にして、せき止め湖の現状や対策の進み具合などの情報を、状況に応じて詳しく発表し、被災地全体に伝える必要があります。また、地元の自治体は、避難の基準を住民に周知して、早めの避難体制を作って欲しいと思います。
《まとめ》
今回の被災地が、4年前の新潟県中越地震や去年の能登半島や中越沖地震の被災地と共通していたのは、被災者に高齢者の姿が目立ったことです。山あいの地区では水田にひびが入って今後の稲の生育が危ぶまれたり、畜産農家が今後に不安を感じていたりと、過疎と高齢化が進んだ地区の中には集落の存亡の危機にさらされているところがあります。
日本の国土の多くを占める、そうした山あいの地域の災害の被害を少なくするための対策や復旧や復興をどう支えていくかという共通の課題が浮かび上がっています。
被災地ではまだ余震が起きていますし、今夜から明日にかけてはまとまった雨も降りそうです。せき止め湖への警戒を続け二次被害をださないようにするとともに、高齢者など一人ひとりの身になったきめ細かい対応で、被災者の暮らしの建て直しを進めて欲しいと思います。
投稿者:山﨑 登 | 投稿時間:23:59