ロシアは国際的孤立の道を選ぼうとしているのだろうか。グルジア紛争をきっかけにした米欧とロシアの対立である。ロシアは世界貿易機関(WTO)加盟交渉の凍結や北大西洋条約機構(NATO)との関係断絶をちらつかせ始めた。
グルジア領の南オセチア自治州の分離独立問題で軍事衝突したロシアとグルジアは、欧州連合(EU)議長国フランスの調停で和平に合意した。だがロシアは合意後も「平和維持」の名目でグルジア領内に軍隊を駐留させている。
完全撤退しないのは合意違反だとして、欧米では対ロ制裁論が浮上。NATO、EUとロシアとの協力関係を見直すべきだとの意見が強まった。ロシアがWTO加盟交渉の凍結などを示唆したのは、欧米で広がる強硬論に対抗する狙いだ。
ロシアのメドベージェフ大統領は南オセチアと、同じ紛争地域のアブハジア自治共和国の独立も承認し、米欧との対決色を鮮明にした。
ロシアは主要輸出品の原油や鉱物資源価格の高騰で国力を増し、大国の自信を強めている。欧州には天然ガス需要の約3割を供給する。ロシアが緊張をあおっても生命線を握られた欧州は譲歩せざるを得ないし、仮に国際社会から孤立しても今の国力なら乗り越えられるという自負があるのだろう。
しかし、孤立はロシアの得にはならない。第一に冷戦崩壊後のロシアの民主化や市場経済化、国際社会との協調が水泡に帰す。第二に外国投資が細り、エネルギー輸出主体のロシア経済のもろさが露呈する。ロシアはグルジア紛争で自国の通貨や株価が下落していることを率直に受け止めるべきである。
そもそも米欧との対立を深刻化させた非は、主権国家であるグルジアに軍隊を駐留させ続けるロシアにあることを忘れてはならない。
比較的冷静に対応する欧州主要国と比べ、米国がロシアの神経を逆なでしているのも気掛かりだ。政府高官を派遣してロシアと距離を置くグルジアやウクライナへの支援姿勢を明確にし、両国のNATO加盟を後押ししている。ロシアが反対する欧州へのミサイル防衛施設の配備でも、米国は米ロ対立のさなかにポーランドとの合意文書に調印した。
対決姿勢をあおる前に、国際社会が南オセチアの平和維持体制を築けば、ロシアはグルジアに軍隊を駐留させる根拠はなくなる。米欧とロシアは国連安全保障理事会などの場を通じ、全面撤退実現への妥協策を速やかに模索するのが先決だろう。