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またもや、お得意の瀬戸際作戦ということなのだろうか。北朝鮮がきのう、衝撃的な言葉を並べた外務省声明を発表した。
核施設を使えないようにする「無能力化」の作業を中断する。それにとどまらず、再び施設を動かせる状態に戻す措置も考慮していくというのだ。
日米韓中ロと北朝鮮が参加する6者協議は、最終的な北朝鮮の核放棄に向けて、段階的な措置をとっていくことで合意している。無能力化はその第2段階に位置づけられている。これをストップさせると、北朝鮮が公式に表明したわけだ。
北朝鮮は6月、同じく第2段階の措置として核開発計画の申告書を提出した。それなのに、米国は見返りとして約束していたテロ支援国家指定の解除を実行しない。合意に反したのは米国だ、というのが北朝鮮側の主張だ。
これは、筋の通らない身勝手な言い訳というほかない。
そもそも昨年10月の合意によって北朝鮮が負った義務は、核開発計画に関する「完全かつ正確な申告」と施設の無能力化を、ともに昨年末までに終えることだった。
だが、申告は約束より半年遅れになった。しかもその申告自体、肝心の核兵器に関する情報が含まれず、ウラン濃縮疑惑やシリアなどへの核技術の拡散問題にも答えない不十分なものだった。「完全かつ正確」にはほど遠い。
少なくとも、申告書の中身を確かめる検証なしには前に進めないという米国の態度は当然だ。
北朝鮮はきのうの声明で「検証は指定解除の条件ではない」と強調した。約束したのは申告書の提出という行為であり、その内容の真実性は問われないとでも言いたいのだろうか。
この背景には、北朝鮮との合意づくりを急いだ米国のブッシュ政権の姿勢があるのかもしれない。北朝鮮が米国の足元を見て、いい加減な申告でお茶を濁せると思いこんだとすれば、大きな誤解というほかない。
検証の必要性では、北朝鮮を除く5カ国は一致している。危機を演出して相手の譲歩を迫る、いつもの戦術はもはや通用しまい。
6者合意は、日米との国交正常化や経済・エネルギー支援など北朝鮮にも多くのメリットを約束する枠組みだ。これを壊すのは北朝鮮にとっても得策ではないはずだ。
北朝鮮は今回の声明で、この合意全体の有効性には触れなかった。なんとか見返り措置を実行させようとの作戦のようにも見える。だが、それには検証を受け入れるしかないのだ。
北朝鮮に影響力を持つ中国をはじめ日本を含む5カ国は、そのことを北朝鮮に対して粘り強く、はっきりと伝えていかねばならない。
福田内閣よ、お前もか。そう嘆きたくもなるというものだ。
昨年、安倍内閣をきりきり舞いさせた事務所費をめぐる不透明な会計処理が、こんどは福田改造内閣で農水相に任命された太田誠一氏に浮上した。
今回の問題は次のようなものだ。
太田氏の政治団体が秘書の自宅を「主たる事務所」と届け出て、05年と06年の政治資金収支報告書に計550万円余の事務所費を計上していた。
この団体は、秘書に家賃は支払っていないという。では、このお金はいったい何に使われたのか。「よく調べて答えたい」と口を濁している。
思い浮かぶのは安倍内閣の、あの人々である。
当時の松岡農水相は家賃や電気代がかからない議員会館に多額の事務所費や光熱水費を計上し、「ナントカ還元水」との迷答弁を残して自殺した。その後任の赤城農水相も実家を事務所と届け出て、巨額の事務所費を計上していたことが発覚し、更迭された。
太田氏の問題は、このふたつの事例をそのままなぞったかのようだ。太田氏は「問題は全くない」と言うばかりだが、民主党など野党が「架空の経費があるのではと疑わざるを得ない」と指摘するのはごく自然なことだ。
それにしても理解に苦しむのは、福田首相がなぜ、こんな問題を抱えた議員を入閣させたのかということだ。
福田首相が今回の内閣改造にかなりの準備期間をかけたのも、閣僚候補に不祥事の種がないことを確かめる、いわゆる「身体検査」が理由のひとつだったのではなかったか。
それなのに、松岡氏や赤城氏とうりふたつの問題をなぜ見落としたのか。経緯はともかく、首相が任命責任を逃れられないことは言うまでもない。
やましいところがないというなら、太田氏は領収書など支出の裏付けとなる書類を示したうえで、国民にきちんと説明すべきだ。首相もまた、「太田大臣の政治活動の問題だ」とひとごとのような言いぶりはおかしい。ただちに説明するよう促す責任がある。
太田氏といえば、5年前の発言を思い出す人もいるだろう。早大サークルの強姦(ごうかん)事件にからんで「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい」と言い放った一件である。
今回の入閣直後にも、中国製の冷凍ギョーザの中毒事件をめぐって「日本は安全なんだけど消費者、国民がやかましいから(安全対策を)徹底していく」と述べて物議をかもした。
自民党の麻生幹事長は「やかましいは関西以西ではプロという意味」とかばうが、野田消費者行政担当相が「大臣なら皆さんが分かる日本語を使うべきだ」と批判したのは当然だろう。
少なくとも「安心実現内閣」の閣僚にふさわしい発言だとは思えない。