| ここから本文エリア 医療のゆくえ/勝山努・県病院事業局長2008年08月22日 
  ――県は、赤字が続いている県立病院の経営改革に乗り出しています。  「まず考えてほしいのは、赤字は悪だと単純に言えるのかということ。例えば県立阿南病院は赤字だが、この病院のある南信地域は一人あたりの医療費が日本で最も低い水準で、財政支出の節約に貢献している。それなのに病院の黒字化のために『もっと病院を使おう』とは言えないだろう。大事なことは、県立病院が保健や福祉の分野と連携した包括的なケアシステムの中核として、地域でより効率的に利用してもらうことだ」  「問題の一つは、運営が硬直化していることだ。県そのものが運営を担っていると、制度や人事、予算面でどうしても制約がある。独立行政法人になって、より柔軟な運営を目指すべきだろう」  ――独立行政法人になると経営効率ばかりが優先されるという心配の声もあります。  「経営面でムダをなくす努力は必要だろう。しかし経営の効率化は目標ではなく、地域での医療機能を高めることが目標だ。少なくとも県内では、これ以上医療機関を手薄にしていいようなところはどこにもないと思っているし、県立病院がどうやれば存続できるのかを考えるのが自分の役割だと思っている」  ――県立病院はその地域の住民の利用率が必ずしも高いとは言えません。  「地域の方々には『自分たちが病院を維持する』という意識を持ってほしい。『県立病院だから県が何とかする』という考え方では、病院は維持できなくなる。病院の評価基準がはっきりしないために患者が都市の大きな病院に集中しがちだが、地域の病院にも優秀な医師がいることを知ってほしい。将来的には公的な病院の評価基準も必要だろう」  「病院は地域での雇用も生んでいて、地域経済の核にもなっている。もしも病院がなくなるということになれば、そういう影響も考えなくてはいけない」  ――赤字の背景には、患者がかかりたい診療科が休診しているといった事情もあります。県も産科や小児科の集約化を進めてきました。  「現状では医師は全国的に足りていない。そのうえ病院勤務医や産科や小児科、外科などの特定の診療科で特に不足してきている。『足りない』と叫んでもわいてくるわけではなく、集約化には仕方がない面もあったと思う」  「医師不足の原因は複合的だ。特に国の医師抑制政策の影響が大きい。さらに診療科の細分化や、医療の高度化で人手がかかるようになったこともあるし、結婚・出産などで退職する女性医師が多いといった問題もある」  「国はようやく医師増員に転換したが、実際に医師が増えるには、この先10年近くかかる。女性が働きやすい環境を早急に整えるほか、診療報酬体系を見直したり、医師の養成過程を効率化したりといった国レベルでの改革も欠かせないだろう」  ――地域ではどうすればいいですか。  「病院と地域との結びつきが大事だ。医師も給料だけで勤務先を決めているわけではない。快適に仕事ができる病院に残りたいと考える医師は多い。例えば地域からのボランティアが多く、地域から愛されている病院では、医師はそう簡単に病院を移ることはない。地域の住民の方々は今いる医師を減らさない、病院を絶対つぶさないという意思をはっきり持ってほしい」(聞き手・西村宏治)           ◇ かつやま・つとむ 1943年、松本市出身。松本深志高校を経て、67年に信州大医学部を卒業。信大助教授、教授を歴任し、03年7月〜08年3月は信大医学部付属病院長。専門は外科病理学。信大の副学長や理事も務めた。08年4月からは県病院事業局の参与となり、今月18日に局長に就いた。 
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