■京都精華大学 吉村和真准教授
「マンガばかり読んで」と、親から小言を言われたのも昔の話。日本のマンガは世界的にも高く評価され、大人から子供までマンガは生活に欠かせないものとなっている。こんな「マンガ大国日本」で、子供はマンガから、どのような影響を受けているのか。京都精華大学マンガ学部の吉村和真准教授(36)は「日本語を覚えるように、マンガが子供の意識に自然と刷り込まれている」と指摘する。(村田雅裕)
昭和40年代、「右手に少年マガジン、左手に朝日ジャーナル」という言葉が流行し、大人もマンガを読むようになってから約40年。現在では「マンガを読むか読まないか、子供が自分で選択する環境にはない。自然とマンガを読む能力が身につく時代になりました」と吉村さん。
ゲームやインターネットは操作法を学ぶ必要があり、「やるか、やらないか」の選択性があるが、マンガに“包囲”された子供は、無意識にマンガを読む能力を身につけるのだ。
吉村さんは大学で学生に質問した。
「最初に読んだマンガは何か。そのとき、読み方を習ったか」。最初のマンガを覚えている学生は多かったが、読み方を習った記憶は、ほとんどの学生になかった。習った記憶はないが、周囲の環境から影響を受けて、いつの間にか覚えてしまう。吉村さんはここに「母国語の役割との共通性」を見いだす。
「日本に生まれれば、選択の余地なく日本語を学ぶ環境にあることと同じ構造です。アンパンマン、ドラえもんに触れないで成長する子供はいないように、マンガを読まざるを得ない環境にある。そして子供は6、7歳までにマンガを読む能力を身につけます」
マンガがいかに社会に浸透しているか。
吉村さんは「何も音がしない状態を『シーン』と言っていませんか。無音だから『シーン』という音もないはずです。私たちは無意識にマンガ表現を使っているのです」と指摘する。
また無自覚の「刷り込み」で、子供がマンガの登場人物をモデルに他人を評価しているのではと、吉村さんは危惧(きぐ)する。
「ドラえもんが象徴的です。私は『ドラえもん包囲網』と呼んでいるのですが、メガネをかけて少しドジな人は『のび太』というマンガのキャラクターをモデルに、子供は友達を評価している。メガネをかけているだけで、『お前はのび太だ』といじめられるのではと心配しています」
「マンガのヒーローは標準語を話す」「少女マンガでは白人のような人物が多い」など、マンガ独自の“文法”がある。「外国人から『何で日本のマンガは日本人でないような人がヒロインなのか』と嘲笑(ちょうしょう)されたこともある。キャラクターのあり方が、子供が他人を評価する際の先入観となっていると思います」と吉村さんは話す。
もちろんマンガに負の部分だけがあるわけではない。芸術性は世界的に評価が高く、歴史をマンガにし、理解しやすくした本も好評だ。問題は、子供自身が自覚なしに、マンガの感性を受け入れてしまうこと。質の悪いマンガが子供の感受性に影響する可能性も排除できない。
「マンガを読むなと言っても隠れて読むだけ。今の30代もマンガで育った世代です。マンガ読者の先輩として、後輩にマンガの選び方などを教える。そんな親子関係をつくっていけばいいのではないでしょうか」
「ドラえもん」「ドラゴンボール」など2世代にわたり読み継がれている作品も多い。親子でのマンガ談義が必要な時代になった。
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