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そこが知りたい家電の新技術
三菱電機「ジェットタオル」

〜風速110m、3秒で手が乾く! ジェットタオルの秘密
Reported by 西田 宗千佳

今回ジェットタオルの開発者を訪ねた岐阜県にある三菱電機・中津川製作所
 海外取材に行って、駅やホテルなどのパブリック・スペースにあるトイレに入ると、ちょっと違和感を感じる瞬間がある。

 それは、大量に紙タオルが積まれていることだ。アメリカあたりだと、本当に量が多い。それを皆、何枚も取って手をぬぐって「捨てて」いく。日本人の感覚からすると、「うわ、もったいない」と感じる瞬間である。

 と、このような気持ちになる理由は、日本のパブリック・スペースのトイレには、「ジェットタオル」があるからなのだろう。手を突っ込んで、風の力で水をぬぐう、あの機械である。

 ジェットタオルという名前、実は、一般名詞ではなく「登録商標」。今回取材した、三菱電機の製品名である。一般名詞としては、「ハンドドライヤー」ということになる。同社が世界で最初に製品化し、デファクトスタンダードといえるほど普及した結果、いわゆる「ホッチキス・サランラップ状態」になっているわけだ。

 今回は、ジェットタオルの開発者を訪ね、「手から水をぬぐうテクニック」を聞いた。


「風」の専門家が開発。「パーツ事業依存」からの脱却が狙い

三菱電機・坂根司氏
 ジェットタオルを開発・製造しているのは、三菱電機・中津川製作所というところ。名前の通り、岐阜県中津川市にあり、写真のように、なかなか風光明媚な場所に工場を構えている。

「実はここは、元々第二次世界大戦の時に、『疎開工場』として作られたものなんです」

 営業部・新事業推進グループマネージャーの坂根 司氏はそう語る。中津川製作所は操業開始が1943年。すでに半世紀以上の歴史を持つ。戦時中は「疎開工場」という性質上、軍需製品の製造が中心であったが、戦後には、主に扇風機の製造を手がけていた。

 その流れで同社の強みは、「モーターと羽根による風の制御」となったわけだ。扇風機に始まり、換気扇、そして空調と、応用範囲を広げていった。その後に事業化した太陽電池や温水式暖房システムと合わせ、環境貢献型の設備機器システムを作っている。キャッチフレーズは「風と空気・水と光の中津川製作所」だ。


疎開工場として作られた「中津川製作所」戦後は扇風機などの製造を手がけていた 戦前に作られた古い型の扇風機 古い型の換気扇が展示されている

中津川工場の内部

 もうおわかりのように、ジェットタオルは、中津川製作所の顔である「風」の技術、すなわち、モーターを使ったファンの技術を応用した製品、ということになる。

 開発の経緯を伊坪氏は、「価格競争が厳しかったため」と語る。ジェットタオルを手がけることになる部隊は、元々中津川製作所で、業務用掃除機のモーターを製造していた。やはり「風」に関わるものではあったが、最終出荷製品を作っているわけではなかったため、ビジネスを取り巻く環境は厳しかった。価格競争が厳しく、利益が薄くなっていったのだ。そこで考えたのが、「完成品として出荷できる製品を作る」こと。

 当初は、高圧の風を活かせるものとして、「自動車用エアワイパー」「業務用食器乾燥機」の製造も検討されたが、最終的に残ったのが、手から水を吹き飛ばす「ジェットタオル」だった、というわけである。

 1993年に初代機「JT-16A」を発売、以後、この分野ではトップシェアを維持し続けている。ずいぶん昔からある印象があるのだが、実はほんの14年前に生まれた、まだまだ新しい製品なのである。


「吹き飛ばし」て手を乾かす

 使ってみればおわかりのように、ジェットタオルの仕組みそのものは単純だ。内部のファンで強い風を起こし、ノズルから勢いよく吹き付けることで、手に付いた水滴を「吹き飛ばす」のである。すなわち極論すれば、濡れた手を振って水を切る、という行為と同じ仕組みであるわけだ。同様のコンセプトの製品には、温風を当てて手を乾かす、というものが多いのだが、ジェットタオルは温風を使わない。逆にいえば、温風を使う機種が多いために、この種の製品の一般名称が「ハンドドライヤー」となっているわけだが。

 温風を使う製品とジェットタオル、どちらが実際には優れているのか。

 頭で考えると、なんとなく温めた方が早く乾くように思えるのだが、実際に試してみると結果は逆である。温風タイプでは、比較的長く手を当てておかないと乾かないのに対し、ジェットタオルの場合には、一般的に使われている「スリム型」の「JT-SB116GN」の場合で4秒から6秒、ハイパワー型の「JT-WB220DS」の場合、さらに半分の2秒から3秒と、非常に短い。温風を使った他社製品、スリム型、ハイパワー型をそれぞれ使ってみたが、特にハイパワー型の威力はものすごい。体感的には、ほぼ一瞬で乾く、という印象である。


ジェットタオルの主な2製品。右の2台がスリム型の「JT-SB116GN」。左がハイパワー型の「JT-WB220DS」 ハイパワー型の「JT-WB220DS」

スリム型で手を乾かしている様子。4〜6秒で手が乾く ハイパワー型で手を乾かしている様子。スリム型の約半分の時間、2〜3秒で手が乾く

三菱電機・都筑宏氏
 では、なぜそんなに早く乾くのだろうか。業務用換気送風機製造部の都筑宏氏は次のように説明する。

「温風式で効率良く乾燥させようとすると、熱を手のひらの水滴に集中的に当てる必要があります。しかし手をヤケドさせるわけにはいきませんから、ある程度の温度で抑えなければならない。それに対し、気体的に、といいますか、流体的に水を落とす場合、手のひらに集中的に当てることができます。エアーで作ったほうきで、水を掻き落とす、といったほうがいいでしょう」

 ジェットタオル初代機が登場した当時、温風式ハンドドライヤーで手が乾くまでにかかる時間は、20秒から30秒もかかっていたという。坂根氏は、「ハンドドライヤーを買っていただくならば、温風式よりも早く乾かないといけない。どうしたら早くなるのか、ということを考えたのが、この商品」と話す。

 手を乾かすのに時間がかかるということは、それだけエネルギーも余分に消費している、ということでもある。製品や使い方にもよるが、ジェットタオルに比べ、最大数十倍ものエネルギーを消費する場合もある、という。


風速・風量をコントロールして効率よく水を切る

 そこで気になるのは、ジェットタオルはなにをしてそれだけの効率を実現したのか、ということである。

 都筑氏は、「まずは風速」と話す。

 開発時にの計測では、手から水を吹き飛ばすのに最低限必要な風速は、なんと65m/秒。時速に直すと234kmである。それだけでも、日常生活では、ちょっとお目にかかれない速度である。

 現在はさらに速度が強化され、ハイパワー型の場合、110m/秒、時速396kmまで高速化している、という。ただしこれには副作用もある。出力が大きい分、騒音も大きくなってしまうのだ。そのため、通常型では80m/秒に速度を抑えている、という。オフィスビルやデパート、駅といった、我々がよく目にするタイプは、こちらの製品である。ハイパワー型は、騒音より速度を重視する、各種工場などで使われる場合が多いようだ。


三菱電機・小林章樹氏
 だが実際には、それだけではうまくいかない。

「大切なのは風速だけではなく、風量なんです」

 都筑氏とともに開発を担当する小林章樹氏は次のように説明する。

「針穴から100m/秒の風を出す場合と、大きな穴から出す場合とでは、意味が違います。針穴から出す場合、風速は高くなるのですが、すぐに速度が落ちて手元では風が弱くなります。大きな穴から風速の強い風を出すには、風量が重要になるのです」

 手のひらからきちんと水を落とすには、強い風量を実現し、手のひらに風の勢いが強いまま当たるよう、強力なブロワー(ファン)を搭載してあげる必要があるわけだ。

 とはいえ、「強いだけだと騒音の問題が出る。風速と風量のバランスのいいところで仕上げる必要がある」(坂根氏)のだとか。

 ジェットタオルの問題は、風を出すがゆえの「騒音」だ。

「騒音には、ブロワーから出る音・ノズルから出る音・風がぶつかり合う音などがありますが、特に音を静かにする上で効いてくるのが、出口から出る音を小さくする、ということです」と小林氏は語る。

 騒音は、風速の6乗で大きくなる、という。水を吹き飛ばす効率を上げると、それはそのまま騒音に結びつく。

「ですから、風の出る速度はなるべく低く抑えたい。実は、以前の機種ではスリム型でも、風速90m/秒だったのですが、それを80m/秒に落とし、劇的な静音化を実現しているのです」(小林氏)

 だが、それによって手が乾くまでの速度が落ちてしまっては元も子もない。開発陣が採ったのは、吹き出し口の形状を変え、より手に風が効率的に当たるようにすることだった。

 以前のスリムタイプでは、吹き出し口は単純な丸い穴であり、一列に並んでいるだけだった。だが、現行のスリムタイプでは、吹き出し口は横長のスリット状となり、配列も山型になっている。


以前のスリムタイプの送風口。吹き出し口は丸い穴だ 現行のスリムタイプでは吹き出し口が横長のスリットになっている
配列は山型になっている

「丸形ですと、風が点状に手にあたります。点と点との間に吹き残しができて、効率が悪い。それに対しスリット状にしますと、風が『面』として手に当たるため、無駄なく当たるようになります」と小林氏は言う。

 これにより、風力を落としても、よりスムーズに、手早く水を切ることが可能になったわけである。

 といっても、それは簡単なことではなかった。これまでスリット状にしなかった理由は、ジェットタオルが「両面」から風を吹き出していたからでもある。

 面状の風が両面から出ると、双方が中央でぶつかって、効率が悪くなる。しかも、ぶつかりあう音は、騒音の元になりやすい。それで、従来は「点」として風を出し、手のひら側・手の甲側それぞれから出る風が、交差してぶつからないようにしていたわけである。

 同社ではこれらの問題を解決するため、ノズル配置を工夫し、風がぶつからないようにすることで、スリット状ノズルを実現したのである。

 また、目立たないことだが、中央部にはちょっとしたふくらみがある。

「これは、風をここで分断するためのもの。まとまった大きな風が巻き込むと、大きな音が発生しやすいんです。分断して小さな渦にすることで、音の発生を抑えています」(小林氏)

 その他にも、ジェットタオルには工夫がたくさんある。

 ジェットタオルには、一目でわかる、特徴的な構造がある。それは、本体の横に「切れ込み」がある、ということだ。


ジェットタオルの特徴的な切れ込み。三菱電機の特許だ 左右の両面に切れ込みを入れることで手を差し込んだ時に左右に振ることができる

中津川製作所のショールームでは、ジェットタオルの進化の様子を見ることができる
「切れ込みを入れると、手を左右に動かしても本体の中に手が当たりにくくなります。手を奥まで入れていただけない理由の1つは、手が内部に触れるのをいやがるから。奥まで入れると、動かした時にぶつかりやすくなりますからね。そこで、側面に切れ込みを入れ、そのまま左右に出し入れしてもらうことで、どこにもぶつかることなく、手を乾かしてもらえるようになったのです」(坂根氏)

 ちなみに、この横に切れ込みがある構造は、三菱電機の特許となっているという。

 ただし、以前と現在では、この構造にも変化が生まれている。初代モデルなどでは開口部が大きかったのだが、現在のものは、かなり薄く・小さくなっている。

「当時は、どのくらい空いていればOKなのか、はっきりとわかりませんでした。そのため、大きめにあけていた、というのが実情のようです。空間が大きいと風は減衰しますから、それだけ強い力で出さねばなりません。現在はスペースを小さくした結果、より小さな出力でも問題なく乾かせるようになり、消費電力も小さくなりました」と坂根氏は言う。

 実は、広く使われるモデルが「スリム型」になったのは、1995年発売の「JT-16C」から。このときが、ジェットタオルの「ターニングポイント」ともいえそうだ。


ダイソンの挑戦には「こまやかさ」で対抗

 ジェットタオルは、現在国内シェア40%を超えるという(三菱電機)。海外展開はまだ始まったばかりだが、今後、積極的に推し進めていく予定だという。

 だが現在、同社には強力なライバルも登場している。それは、サイクロン掃除機でおなじみの「ダイソン」だ。ダイソンは2006年11月にハンドドライヤー市場に参入、「どこよりも効率が良い」ことをセールスポイントに、特に海外市場で三菱に追随している。

 だが、「ノズル周辺のこまやかな作りなどは、まだまだ我々に分があります」と小林氏は言う。

「例えば、奥側と手前側の風の出てくる量にしても、当社は調査の上、異なる風量に調整しています」


送風口からの風の量も調査の上、計算されたもの 奥側と手前側の風の量を調整して、手が「真ん中をキープ」できるようになっている

 同じではいけない理由は、手の「安定度」にある。手を入れ、引き抜く時、手のひらには当然風の抵抗がかかる。この時、バランスが悪いと内部で手が「ぶれ」る。手がぶれると内壁にぶつかりやすくなり、衛生面でも快適さの面でもマイナスとなる。三菱電機では、ぶれないようにバランスをとって、風の強さを調整しているのだという。要は、風の力で自動的に、手が「真ん中をキープ」するようになっているわけだ。

「このようなことができるのは、やはりモーターの技術が優れているから。我々の手で専用のモーターを開発し、利用しているからです。汎用のモーターを買ってきて組み込んでもうまくはいきません」と都筑氏は胸を張る。

 すべては、14年にわたり、この業界をリードしてきた自信と、50年以上にわたり「送風桟用モーター一筋」にやってきた、中津川製作所の歴史がなせることだ、ということだろう。


三菱電機が開発した世界最小コンデンサモーター
DCブラシレスモーター
整流子モーター

 すでに述べたように、ハンドドライヤーはまだまだ国内が主流の市場。海外ではこれから普及が始まる、といったところだ。ダイソンなど各社との競争は、これからよりシビアなものになっていくことだろう。

 省エネルギー性、低コスト性は、ジェットタオルにとって最大のアピールポイント。CO2を減らす、という意味では、大きな効果が見込める。

 ジェットタオルは電気こそ使うものの、紙タオルを使う場合に比べ、コストが非常に低い。

 三菱電機側の試算によれば、1カ所のトイレで5年間、毎日100回トイレを利用した場合、1カ月あたりの紙タオルのコストはおよそ5,000円。それに対し、ジェットタオルの電気代はわずか70円だ。ジェットタオル本体の償却費を上乗せしても、3,100円強で済む。使用回数が多いと差はもっと開く。毎日1,000回利用されるトイレの場合、1カ月あたりの紙タオルのコストは、10倍の5万円になる。だが、ジェットタオルの方は、電気代がかかるだけなので、3,600円前後で済むことになる。

「費用の点でも有利ではありますが、なにより、ゴミが減ることを強調したいです」と坂根氏は話す。

「1つの建物で、毎月770kgもの紙タオルが捨てられています。これがなくなるわけですから、効果は絶大ですよ。

 トイレを出た後に手を拭く、というと、「全員がハンカチを持参すれば済むことでは」と思いがちだが、現実はそううまくいかない。また、工場設備のように、出入りが激しい上に、工程上手洗いが必要な場所では、毎回の手洗い時間短縮のためにも、こういった機器が必要とされている。

「まだ例は少ないのですが、今後は幼稚園や老人ホームへの採用も働きかけていきたい」と坂根氏は話す。

 日本に根付きつつある「手洗い習慣の変化」は、世界的な流れになっていくのだろうか。





URL
  三菱電機株式会社
  http://www.mitsubishielectric.co.jp/
  中津川製作所
  http://www.mitsubishielectric.co.jp/works/nakatsugawa/
  ジェットタオル製品情報
  http://www.mitsubishielectric.co.jp/service/jettowel/

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