核拡散防止条約(NPT)体制の崩壊危機が叫ばれて久しい。米国とインドの核協力問題は、これを加速する危険性がある。安易に核不拡散の歯止めを外してはならない。
米国とインドは昨年七月、原子力協定を締結した。米国がインドの民生用原子力施設に、核燃料や核関連技術などを提供し支援する内容で、インドの電力需要の急増に対応するためだという。
協定発効には(1)インド民生用原子力施設に対するインドと国際原子力機関(IAEA)の査察協定締結(2)核燃料供給など原子力供給国グループ(NSG、日本など四十五カ国)によるインドへの核関連輸出規制の撤廃(3)米議会の批准−が必要である。
インドは、NPTに未加盟であり、一九七四年と九八年に核実験を強行している。現在、核実験は凍結しているものの、再開についてはインド自身で決定するとの方針を堅持している。
核防条約は、未加盟国に対し平和利用目的とはいえ支援しないのが鉄則だ。しかし、今月初めのIAEA理事会(日本など三十五カ国で構成)はインドを「例外」として、全会一致で査察協定締結を承認した。原子力供給国グループは結論を先送りしている。
ブッシュ米政権は、原子力施設の対印売り込みや中国の対抗勢力としてのインドの地位などを考慮し、この協定に固執してきた。
IAEAもNSGも核不拡散を主目的に、米国の主導で設立された機構だ。ブッシュ政権の姿勢は従来方針の転換であり「米国の二重基準」と批判されてもしかたない。米国は原子力協定発効の前にインドにNPT加盟を勧告し、インドも加盟するのが筋だ。
米英仏中ロの核保有国は、非保有国への核不拡散を強調する一方で、NPTが規定する「誠実な核軍縮」への努力義務を履行していない。早急に関係国の間で核軍縮交渉を始めるべきである。
「核兵器は廃絶されることにだけ意味がある」と広島平和宣言はうたっている。福田康夫首相は「核廃絶と恒久平和に向けて、国際社会の先頭に立つ」と明言している。
日本は「核廃絶」への努力を重ねてきた。日本政府は、この努力を無駄にしてはならず、米印原子力協定など、核不拡散に逆行する行為は認めるべきでない。
二十七日から国連軍縮さいたま会議が開かれる。活発で具体的な「核廃絶論議」を期待したい。
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