北京五輪を境に日本の地上デジタル放送の受信世帯とブロードバンド(高速大容量)通信の利用世帯がそれぞれ全世帯のほぼ半数を超えた。一方、そうした情報通信技術(ICT)の恩恵にあずかれない世帯も残されている。地域間のデジタルデバイド(情報格差)が大きな問題だ。情報過疎地の解消に向け、政府や地方自治体はインフラの整備とその利用促進に力を注ぐ必要がある。
高速ネットや携帯電話などの普及度と利用度を測った総務省の指数によると、普及の速さで青森県は東京都の6割にとどまった。地域間でインフラ整備にばらつきがあり、情報通信技術を積極的に活用している地域ほど経済成長率も高い。
情報通信技術の活用度を自治体ごとに比べた指標では、550点満点中、430点で神奈川県藤沢市が1番進んでいる。慶応大学湘南藤沢キャンパスを抱え、地域ぐるみで情報化に取り組んでいるためだ。しかし、先進的な自治体は都市部に限られ、全体の平均はわずか80点。地方に行くほど数字は低くなる。
情報通信技術の効用が期待できるのは医療、福祉、教育といった公的サービスの分野だ。情報化に熱心な自治体ほど行政サービスにかかる支出は相対的に少ない。だが、自治体のなかには職員の能力の問題や情報流出の危険性などを理由に、十分な活用をしていないところもある。
インフラの全国整備も欠かせない。地上デジタル放送はまだ約300万世帯が受信できない。ブロードバンドも約100万世帯が利用できない。デジタル放送の全国整備にはあと2000億円、ブロードバンドは1000億円かかるとされる。民間で整備できない地域には、情報化で行政コストが下がるようにしたうえで、公的資金を投じる必要もあるといえよう。
岐阜県は山間部が多く、インフラ整備が比較的遅れている。そのなかで中津川市は市の予算で高速ネットを整備し、住民が遠隔で保健指導などを受けられるようにした。おかげで市民病院に配置する保健師も少ない数で対応できるようになった。
デジタルデバイド問題は2000年夏に沖縄で開いた主要国首脳会議で重要議題となった。その後、日本はインフラで世界最先端となったとされる。半面、医療や教育、行政分野の情報化では今も欧米やシンガポール、韓国の後じんを拝す。年金問題など行政の信頼が揺らぐ今こそ、政府も自治体も情報通信技術を上手に活用すべきだ。国民が納得できる行政サービスを提供することで、地域に活力を呼び戻してほしい。