来月8日に告示される民主党の代表選挙は、野田佳彦広報委員長の出馬断念で小沢一郎代表が無投票で3選されることが、ほぼ確実視されている。
民主党による政権交代も視野に入る状況だけに、代表選への国民の関心は高い。国民の前に開かれた場で、民主党内の政策論争を深化させるにはまたとない機会になるはずだ。それだけに、無投票は残念な結果だといわざるを得ない。
自民党内と同様に民主党内でも、世代間対立は顕著になっている。しかし、若手の前原誠司前代表が「偽メール事件」で辞任して以来、党運営の主導権は小沢代表を頂点とするベテラン勢に移った。菅直人代表代行も鳩山由紀夫幹事長も早々に小沢氏支持を鮮明にし、結束を固めた。ベテラン勢に対抗する一番手とみられた岡田克也元代表の不出馬で、小沢氏の3選は揺るぎないものとなった。
小沢代表の下で昨年の参院選も今年4月の衆院補選も勝利した。次期総選挙で民主党が勝利すれば、90年代からの政治改革が目指した政権交代可能な2大政党制が実現する。党内論争よりも、総選挙向け挙党態勢の確立を優先させたい議員心理も選挙回避に働いた。
自民党幹事長当時から小沢氏は「裏の権力」に執着した。非自民の細川護熙、羽田孜政権でも表に出ず「二重権力」批判を招いた。しかし今回、民主党政権樹立時には、首相の座に就くことを明言。「小沢3選」は加速された。
だが、政策論争抜きでは政権担当能力は十分に保証されない。民主党が掲げる政策の財源は「政府の無駄を削る」に依存し、積算根拠があいまいだ。3年前の郵政民営化総選挙では、民主党は年金の財源として消費税率の引き上げを打ち出していた。
前原氏は「代表選挙では財源論を争点にすべきだ」と述べていた。岡田氏も「(自民党内の)『上げ潮派』には懐疑的」と明言している。だが、小沢執行部になって以来、消費税率の引き上げは、事実上禁句になっている。自民党内からの「開かれた国民政党なのか」といった批判も当然だ。
野田氏は出馬断念会見で「政権交代を実現するための、まさにのろしを上げる」と、代表選の意義を語っていた。その認識には同感だが、代表選は同時に権力闘争でもあるとの自覚が、野田氏も、仲間も希薄すぎた。権力闘争は落としどころを間違えなければ、分裂促進より党の活性化につながるはずだ。
最近、小沢氏と会談した武村正義元官房長官は、二つの注文を出したという。「(小沢政権は)最低2、3年続かせるよう」「選挙準備50%、政権維持の政策準備50%」だ。両氏が協調して樹立した細川政権は9カ月足らずで崩壊した。その教訓を、民主党はもっとかみしめるべきだろう。
毎日新聞 2008年8月26日 東京朝刊