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社説

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米大統領選―世界の不安にも応えよ

 いよいよ米大統領選が本番に入る。民主党はコロラド州デンバーで党大会を開き、バラク・オバマ氏を候補者として正式に選出する。共和党も9月1日からの党大会でジョン・マケイン氏を選ぶ。11月4日の投票日に向けて、選挙戦のスタートだ。

 4日間の党大会では、副大統領候補も決める。お祭りのような雰囲気の中で正副大統領候補の人柄や政策をアピールし、およそ2カ月間の戦いの門出を盛り上げる。

 だが、米国内のムードは沈滞している。住宅バブルがはじけて、失業率は6%に迫ろうとしている。米国民は住宅ローンの破綻(はたん)やガソリンの高騰、物価高に苦しんでいる。

 国内経済の立て直しが論戦の大きなテーマになるのは自然なことだろう。イラク戦争にもかかわらず米経済は好調を続け、米国民は豊かな消費生活を享受してきた。それが暗転したのだから、有権者が不安を募らせるのは分かる。米経済が立ち直ってくれないと、世界経済も不安定が続くし、日本の暮らしにも影響する。

 ただ、議論があまり内向きになっては困る。唯一の超大国・米国が世界に対して担う責任は、経済だけにとどまらないからだ。

 予備選挙で旋風を巻き起こしたオバマ氏が今夏、欧州や中東の歴訪で大歓迎を受けた。ベルリンでは20万人もの聴衆が詰めかけた。この7年余り、イラク攻撃に突き進むなど、単独行動主義と批判されることの多かったブッシュ大統領に対する不満の裏返しでもあったろう。

 米大統領の政策によって、世界中の政治や暮らしがどれだけ大きな影響をこうむるか。海外でのオバマ人気はそれを物語っているのではないか。

 イラクでは、米軍兵士の犠牲が目に見えて減ってきた。マケイン氏は増派作戦の成功を強調している。オバマ氏はイラクから撤兵して、アフガニスタンへの増派を主張している。今後、この地域の安定をどう実現するのか、同盟国や国連にどんな役割を期待するのか。米国民だけでなく世界に対して語ってもらわなければならない。

 地球温暖化や北朝鮮、イランの核問題への取り組みなど、ほかにも聞きたいことは山ほどある。

 投票日までに両候補は3回の討論会を行う。それに加えて、アジアやイスラム諸国の記者から質問をうける機会を設けてはどうだろう。候補者のメッセージが外国でどう受け止められているかは、米国の有権者にも重要な判断材料になろう。

 景気の悪化に直面し、テロとの戦いの先行きに不安を覚えているのは、米国民だけではない。米国の世論が他国と共鳴しあう。そんな大統領選にする工夫はないものだろうか。

暴力団追放―住民まかせにせずに

 準構成員を含めて千人の組員を抱える九州最大規模の暴力団を相手に、「出て行け」と言うのだから、住民はさぞ勇気がいったことだろう。

 福岡県久留米市の指定暴力団、道仁会の本部事務所に対し、周辺の住民ら約600人が使用差し止めを求める仮処分を裁判所に申し立てた。

 道仁会の本部があることによって、平穏な生活を営む「人格権」が侵害されている。それは民法上の不法行為にあたる、というのが住民の主張だ。

 住民が暴力団の事務所を追い出したケースはこれまで各地にあるが、指定暴力団の本部事務所に退去を迫るのは初めてだ。暴力団を追いつめるうえで大きな意味がある。警察は住民の安全をしっかり守ってもらいたい。

 道仁会の本部事務所はマンションや会社などが密集した市中心部にある。これまで我慢してきた住民に行動を決意させたのは一昨年5月から始まった抗争事件だ。いきなり本部事務所が銃撃され、民家の窓ガラスが割れた。

 抗争のきっかけは、道仁会の会長の13年ぶりの交代だ。新しい会長に不満を抱いた傘下の組織が離脱し、九州誠道会を結成した。双方の襲撃事件は福岡県をはじめ佐賀、長崎、熊本県で二十数件にのぼった。佐賀県武雄市では入院患者が人違いで射殺された。

 暴力団は追い出しても別の場所に移るだけだ、との声もある。だが、そうなれば、移った先でまた追い出す。各地で居づらくさせれば、確実に弱体化させることができるだろう。

 今回、地元の久留米市は訴訟費用の補助などで住民を支援するようだが、自治体が訴訟に参加するなどして、もっと前面に出られないものか。いまの法律では実現が難しいというなら、自治体が一定の条件の下で暴力団事務所の退去を求めることができるように、新たな立法を考えてはどうか。

 いまでも暴力団対策法では、指定暴力団同士の抗争などの場合、県公安委員会が事務所の使用制限を命じることができる。今回は、一方の九州誠道会が当初、指定暴力団でなかったこともあって、その措置が取られなかった。法改正で制限命令の対象を広げるとともに、最長6カ月となっている制限期間も大幅に延ばした方がいい。

 暴力団を追いつめるには、資金源を断つことが大切なのは言うまでもない。強引な債権取り立てや恐喝にとどまらず、普通の経済活動を装って不動産や運送、廃棄物処理から証券取引にまで触手を伸ばしている。一つひとつ排除していかねばならない。

 公共工事から暴力団を締め出すこともまだまだ十分ではない。

 警察は住民や自治体、業界と連携を取りながら、あらゆる法令を使って、暴力団の資金源を締め上げ、壊滅へと追い込んでほしい。

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