後発医薬品(ジェネリック)の使用を求める声が強い。魅力は先発医薬品の半額程度という安さだ。国は医療費削減のために勧め、病院や健康保険組合も「使って」と声をそろえる。一方で「効果や安全性が先発品に劣らないか」との疑問は根強い。「同じ品目の薬が数十社から出て選べない」との戸惑いもある。後発品の現状と課題を報告する。1回目は、導入の進む様子を紹介する。【渋江千春、高木昭午】
◇薬代削減へ 患者に利用促す--医療費抑制狙う国「シェア3割以上に」
東京電力千葉支店で働く石川秀一さん(33)は昨夏、アレルギーの薬を後発医薬品に変えた。安くなると聞いて主治医に頼み、月に約3000円だった医療費を約1500円に減らせた。「毎日飲むので半額は大きい。不都合は感じないのでこれからも利用したい」と話す。
石川さんは東電の健康保険組合(加入者約10万人)から「ジェネリック(後発)医薬品利用促進のお知らせ」を受け取っていた。組合は06年9月から「お知らせ」を始めた。内容は、組合員が使っている先発医薬品名と、対応する後発医薬品名、後発品に切り替えた場合の薬代の最大削減額だ。がんと精神疾患以外の病気を対象に、3カ月以上同じ医療機関で同じ病気で薬を処方され、後発品に変えれば自己負担が500円以上減る見込みの組合員に送られている。
組合は、慢性化する赤字対策の一つとして約135万円かけ、通知用のコンピューターシステムを導入した。運営費は月約50万円だ。試算では、導入の効果で、昨年度の薬代負担が約2700万円以上減ったという。組合本部の西山和幸常務理事は「医療費の増加を緩やかにするため、できる努力はしなければ」と説明する。
広島県呉市も国民健康保険の加入者に今年7月から東電と同様の通知を始め、約3000人に送った。
呉市は、支出した医療費が国の基準より14%以上多く、厚生労働省から支出を抑える計画の策定を求められていた。そこで医療用ソフト開発会社から、通知用のシステムを導入すると決め、今年度予算に4800万円を計上した。市保険年金課は「国保財政の健全化は全国的な課題。仮に今年度は赤字でも、いずれ効果が出る」と話す。この会社は、すでに30以上の健保組合に、同様のシステムを提供しているという。
病院も積極的になってきた。大病院の多くは、1日当たりの入院費を定額で受け取る。薬代がかさめば病院の負担が増す。安い薬は魅力だ。
聖マリアンナ医大病院(川崎市)は後発品導入の旗手だ。03年から始め、今は注射薬と内服薬計1700品目のうち230品目が後発品という。増原慶壮(けいそう)薬剤部長は「導入4年で合計10億円の薬剤費削減になった。(副作用などの)問題も起きていない」と胸を張る。
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背景には、医療費抑制を目指す国の政策がある。国は「経済財政改革の基本方針2007」で、07年度は17%だった後発品の数量シェアを、12年度までに30%以上にする目標を掲げた。実現すれば約4300億円も医療費を削減できるという。
厚労省は今年4月、患者が薬局に持参する処方せんの様式を変えた。以前は、処方された薬を薬局で後発品に変えられるのは、処方せんに医師の署名がある場合だけだった。今は逆で、署名がなければ、患者が薬剤師と相談して後発品を選べる。
さらに、厚労省は4月、生活保護受給者に後発品を使わせるよう自治体を指導する通知を出した。ところが、毎日新聞がこの通知が出されたのを報道すると、専門家らから「患者が選択できない」「有効性の情報が不足している」と批判され、同省は撤回した。
ただ、増原部長は国の政策に理解を示す。「みんなが医療費を削減しないと、医療制度はもたない」
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製薬会社が新規開発した医薬品(先発医薬品)の特許が切れた後、特許内容を利用して別の会社が作る薬。開発費が少ないため価格が安い。有効成分は先発品と同じ。欧米では商品名ではなく、有効成分名を指す一般名(ジェネリック・ネーム)で処方されることが多いため「ジェネリック医薬品」とも呼ばれる。日本では、後発品の薬価(健康保険で認められる価格)は、当初は一律、先発品の7割になる。薬価はその後、病院などが購入する価格(実勢価格)の推移に合わせて下げられる。実勢価格は製薬会社によって違うため、有効成分が同じ後発品でも、薬価は何種類もある。一つの先発品に30社以上が後発品を出している場合もある。
毎日新聞 2008年8月26日 東京朝刊