「(世界のトップとは)勝負にならなかったことを、すごく実感した」。北京五輪男子マラソンで十三位に終わった日本代表・中国電力の尾方剛選手は悔しさをにじませた。
五輪競技に勝者がいれば敗者がいる。勝っても負けても私たちに感動を与えてくれるのは、想像を絶する厳しい鍛錬の裏付けと、最高の舞台で燃え尽きたすがすがしさがあるからだろう。
男子ハンマー投げで五位と、連覇を逃した室伏広治選手は「できることはすべてやった。四年間(の成果)がたった一時間で終わるけど、内容を凝縮した一時間だった」と語った。腰痛に苦しみ続けただけに、戦えたことを喜んだ。
五輪期間中、本紙夕刊に「敗者の軌跡」という企画が連載された。夢がかなわなかった選手に焦点を当てた。オーストラリアの競泳男子自由形長距離の帝王といわれたグラント・ハケットも取り上げられた。千五百メートル決勝で史上初の三連覇は達成できず、銀メダルだった。
「これまでに積み重ねた準備にも、レースの泳ぎにも悔いはない」と潔かった。二十八歳になり「自分の体は徐々に衰えている。長距離を泳ぐ練習に疲れてきた」とも認めた。今後は未定だ。「休みを取り、何が起こるのかを見極めたい」。
選手たちの談話は珠玉だ。人生訓が詰まった宝石箱である。