「鳥の巣」の愛称を持つ国家体育場で燃え続けた聖火が消えた。世界から史上最多の二百を超える国・地域が参加して十七日間繰り広げられた北京五輪は多くの話題と感動のドラマを残して幕を閉じた。
中国指導部が「中華民族百年の夢」と位置付け威信をかけて実現した北京五輪は、中国が抱える問題を浮き上がらせる場ともなった。チベット問題では聖火リレーが激しい抗議にさらされて変則的な運営を余儀なくされた。さらにテロの影に、選手たちは物々しい厳戒態勢の中で競い合った。
競技ではスポーツの醍醐味(だいごみ)が堪能できた。とりわけ新記録ラッシュがすごかった。陸上競技ではボルト選手(ジャマイカ)が男子百メートル9秒69、二百メートル19秒30と驚異的な世界新記録を樹立した。四百メートルリレーと合わせ三冠をすべて世界新記録で勝ち取った。競泳でもフェルプス選手(米国)が前人未到の八冠を達成、うち七つが世界新記録という快挙を演じた。「超人」たちの底知れない強さに人類は進化していると実感させられた。
日本も引けをとらない。競泳男子平泳ぎの北島康介選手は、百メートルを世界新、二百メートルを五輪新で二大会連続の二冠を達成した。重圧を乗り越え期待通り栄冠を手にする精神力の強さと技量には敬服するばかりだ。
男子のトラック種目では日本初の銅メダルに輝いた陸上男子四百メートルリレーや、エース上野由岐子投手の力投で宿敵米国を下し悲願の金メダルを手にしたソフトボール日本代表も印象に残る。一方で、野球やシンクロナイズドスイミングといった期待の種目で精彩を欠き明暗を分ける形となった。
日本チームが獲得したメダルは金九個、銀六個、銅十個の計二十五個。目指した金メダル二けた総メダル数三十個以上には届かなかった。しかも二大会連覇の選手が多い。裏返せば若い層の育成が課題といえよう。
郷土勢も頑張った。岡山湯郷ベルの宮間あや、福元美穂両選手が活躍した女子サッカーは四位の好成績を収めた。女子マラソンの中村友梨香選手(天満屋)は二回目のマラソンで十三位、陸上女子五千メートルの小林祐梨子選手(岡山大)も決勝へあと一歩と健闘した。出場選手は次への大きな弾みとなるだろう。
北京五輪は、中国指導部が完ぺきを目指すあまり開会式典での歌唱の「口パク」や少数民族の子どもを装った演出、大量の官製応援団など「虚」の色が濃かった。五輪を機に、開かれた中国に大きく変化すれば国際社会にとって喜ばしい。
ロシアはグルジア・南オセチア自治州をめぐる紛争でグルジア領内に侵攻したロシア軍部隊の撤退を完了したと発表した。しかし、ロシア軍がグルジア領内に緩衝地帯を設けて監視活動を始めたことに、グルジアや後ろ盾の米国などが「合意した和平原則に反する」と強く反発、新たな火種となりそうだ。
和平原則は欧州連合(EU)議長国フランスのサルコジ大統領の仲介によって、ロシアのメドベージェフ大統領とグルジアのサーカシビリ大統領が署名した。戦闘の全面終結をはじめ、グルジア軍やロシア軍の戦闘開始前の地域への撤退など六項目からなる。
グルジア中部の要衝ゴリなどに侵攻したロシア軍は、なかなか撤退の動きを見せず国際的批判が高まっていた。ロシアが撤退を実行に移したことは和平へ向け一歩前進といえよう。
だが、先行きは容易ではない。ロシアは南オセチアの境界を越えたグルジア領内に緩衝地帯に当たる「責任ゾーン」を設け、十八カ所の監視ポストと約四百五十人の平和維持軍部隊を配備してグルジア軍を排除する計画だ。南オセチアと同様にグルジアからの分離独立を主張するアブハジア自治共和国の境界を越えたグルジア領内にも緩衝地帯を設けている。
ロシアは緩衝地帯設置について、今回の紛争前にグルジアとの間で合意したとする。これに対し、米国などは「和平合意の枠外だ」と主張する。平和維持にしても一方の当事国のロシアだけで当たるのは問題があろう。ロシア軍の完全撤退と国際的監視体制の構築が急がれる。
グルジアは要衝の地で民族問題も絡むだけに、絶えず緊張状態にある。住民の被害を抑え、世界の安定を脅かさないためにも火種を残してはならない。
(2008年8月25日掲載)