特集インタビュー:中里 “レイ” 英一郎氏が、日本と世界のゲームを語る (1/4)
これまであまり国内のメディアでは語られていない、レイ・ナカザトことフィールプラス社長の中里英一郎氏。日本のコンピュータゲーム黎明期にボーステックでレリクスなどを開発し、80年代に渡米してBroderbundやEAなどに在籍、その後はカプコンで東京スタジオを立ち上げ、今度はMicrosoftで日本のXbox360ソフト全体の計画に関わった後、現在はLost Odysseyの製作のため設立されたフィールプラスの社長という人物。
そんな彼の経歴や人脈は大変に興味深いもので、日本のゲーム産業においてしばしば意外とも思える幅広いつながりを一人で結びつける、実に様々なシーンに関わっておられます。
その草創期から日本とそして世界のゲーム開発を共に深く知る彼に、おなじみGamasutraが行った海外ロングインタビュー。原文は7ページに渡るとても大きなものですが、既に話題となっていることもあり今回は後半の4回について分けてご紹介。海外業界紙ならではの鋭い質問と、それに本音で答える彼のインタビューは、日本ではなかなか聞けない大変貴重なものとなっています。
Gamasutra: たくさんの日本の開発者達、特に水口哲也氏や稲葉敦志氏といったビッグネームがみな独立を始め、今のゲーム会社の体制に大きな不満を抱いているようです。例えば、セガからもクリエイティブな才能はどんどんいなくなりました。鈴木裕氏を除けば…彼は何をしているんでしょう。なぜこういったことがおきていると思いますか?
Ray Nakazato: 私はカプコンにいたので、稲葉さんや特に三上真司さんの理由についてはわかります、彼らがなぜ自分達の会社を持ちたがっているか。大きなヒットを出して会社が大きくなれば、企業はさらに成長していきます。その大きな会社を維持するには、今度はその利益を上げ続けなくてはいけません。利益を確保するためには、多くの努力をメガヒットの続編へ費やすことになります。私がカプコンにいたときは、八つのスタジオがありました。興味深いことに、彼らのほとんどは会社を去りました。
Gamasutra: 岡本氏はどこに?
Ray Nakazato: 彼は管理する側でした。当時それら八つのスタジオ間では、互いにラインナップのバランスがありました。けれど、三上さんはそれが好きではありませんでした。大きなカプコンの組織の中では新しいことが生み出せないように彼には感じられて、岡本さんに別のもっと独創的なことが出来るスタジオを作るよう頼みました。それがなにか大掛かりなものである必要はありません、もっとクリエイティブなことをしたかったのです。
Gamasutra: いくつかの会社発表によると、三上氏は正式にカプコンを退いたようでもありません。彼はSeedsにいますか?
Ray Nakazato: 彼は辞めました。稲葉さんと、Seedsにいます。
Gamasutra: 三上氏は、私にとってとても印象的です。例えばResident Evil 4(バイオハザード4)の時、その完成度には本当に驚きました。オールドスタイルのゲームプレイを持っていましたが、それなのに本当に進歩的な感じです。
Ray Nakazato: あれは、良い例です。彼が作り出すものは素晴らしいです。しかし、それは商業的な成功を意味しません。彼は、ゲームキューブをResident Evil 4のためのプラットフォームに選んだ人でした。そしてビジネスの観点から、カプコンの多くの人たちはそれが正しい決定だったとは考えないのです。
Gamasutra: 日本での開発とアメリカでの開発に、あなたはどんな違いを見ることができますか?
Ray Nakazato: 違いは、非常に大きいです。私は、アメリカの企業でたくさんのことを学んだ気がします。80年代前半の当時、日本ではどうやってゲームを作るか、自分自身で学んでいくしかありませんでした。誰も教えてくれる人はいないので、私は自分のやり方でゲームを作っていました。
そして、アメリカに渡りBroderbundに入りました。1988年の当時でさえ、彼らにはとても洗練されたシステムがありました。共有ライブラリ、ツール、マルチプラットフォームのサポート、プロジェクトの計画と追跡…私にとっては非常に珍しいもので、たくさんのことを学びました。組織的にゲームを作る方法、開発チームを運営する方法…全てはアメリカで。日本に戻った時、自分が学んだこれらを自分のスタジオやチームで試したら、それは有効に機能したものです。
Gamasutra: ではそういった交流の結果、当時と比べて現在は二つの地域の間でより多くの共通した点があると考えますか?
Ray Nakazato: それは、少しは似てきています。しかし日本の開発者はより逐次的なので、アメリカの開発はより計画重視であるように私は思います。日本の開発者は、終盤になってたくさんのチューニングを費やし、土壇場で廃棄してしまいさえします。しかしアメリカでの開発は、予めよく計画されるので、計画通りに開発されその状態で完成になります。最初に正しく計画されていれば、それはうまく行くでしょう。でももし計画が正しくなくても、完成は完成です。日本では、かなり多くのことをやり直します。もっとも、似てきてはいます。
Gamasutra: Microsoftが日本で成功するために、これは必ずしも経営的にではなく、消費者を本当に惹きつけるという意味で、あなたは何を必要とすると思いますか?
Ray Nakazato: オンライン。PS3がどうなるかはわかりませんが、それは漠然としています。ただいま日本では、DSやWiiが大変に成功していますので、日本の多くのデベロッパやパブリッシャはDSとWiiに集中しており、PS3やXbox360は実に少ないです。ですから最終的に、日本製ゲームの大半は携帯機かWiiで出ることでしょう。
彼らは、PS3へ投資する準備は出来ていました。しかし、PS3は人々が考えていたほどには成功していません。そしてPS3でゲームを開発するコストが高いので、たくさんのパブリッシャは現在わずかのPS3ゲームを作るだけで、多くはDSやWiiのゲームです。360は実に少ないです。
これが、AQインタラクティブを始めた理由の一つです。新しいデベロッパやパブリッシャとして独自のポジションを確保するため、日本で他の誰もそうしていない時期に360へ大きな投資をしました。当時、会社はこのハードが日本でももっと成功すると考えていました。しかし、もちろん実際はそうではありません。一方北米では大変上手くいっていたので、私達のポジションは依然問題ありません。日本市場に特化するのではなく、私達はグローバルなマーケットへ作ります。多くの人々は、そうはしません。
カプコンはそれをして、Dead RisingやLost Planetといったタイトルでうまくやりました。しかし、ほんの少数の会社が360に投資して、ほんの少数がPS3をやります。私が言うのは、これから数年間でたくさんの日本製ゲームをDSやWiiで目にするでしょう。しかし、日本からハイエンドなゲームはほとんど出ないということです。ハイエンドゲームのユーザーは、これまで以上に欧米のゲームを買わなければならなくなるでしょう。日本国内ですらそうです。もし、そういったハイエンドなゲームがしたいなら、彼らは欧米のゲームにもっと親しみ始めると私は思います。
日本のゲーマーの大部分は、DSなどでカジュアルなゲームへ流れることになるでしょう。とはいえ、ハイエンドなゲーマーマーケットもできます。彼らにとって、日本製のゲームに不自由するのであればアメリカのゲームも遊び始めることでしょう。
(ソース: Gamasutra: “Ray Tracing: A Japanese Game Market Expose With Ray Nakazato”)
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