多民族共生人権教育センター
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坂中 英徳 さん

(名古屋入国管理局長)

「21世紀の日本社会と在日韓国・朝鮮人
−多民族社会と『在日』の役割−」

多民族共生人権教育センター設立記念講演

 「21世紀の日本社会」は、人口が激減していき、徐々に活力を失い衰退していく社会と推測されます。その場合、人口減少社会の日本は「多民族社会」を選ぶのか、日本人は「多民族共生社会」を実現するための困難を乗り越える覚悟があるのか、これらの基本問題について国民的な議論が展開されることを期待するものです。

 私は21世紀前半中の「在日韓国・朝鮮人自然消滅論」を唱えるものです。韓国籍・朝鮮籍の在日韓国・朝鮮人の人口は、ここ数年、帰化の増加、日本人との婚姻の増加、人口の自然減の進行などにより、年間1万人のペースで減少しています。このような趨勢で人口が推移すると、これから20年で「在日」の人口は半減します。在日韓国・朝鮮人がすべて日本国籍となり、名前まで日本人と同じとなれば、日本社会からその姿が見えなくなってしまいます。こうした事態を指して「自然消滅」といいました。
 人口減少社会への対応の基本的なあり方として、「小さな日本への道」と「大きな日本への道」という二つの道が考えられます。

 「小さな日本への道」とは、日本人口の減少を容認するもので、「縮小社会」つまり人口が適正規模の「美しい小さい日本」を目指すものです。日本人口の減少に伴い「成長社会」から「成熟社会」への転換を図るというものです。
 この場合、日本の経済、社会の運営は基本的に外国人の助けを借りずに行われます。「移民」や外国人労働者の受入れは厳しく制限されます。そして、国民は「贅沢な生活」から「質素な生活」に改める等、これまでの価値観とライフスタイルを変える必要があります。
 「大きな日本への道」は、人口の減少分を外国人人口で補充することで現在の人口規模を保ち、経済成長の続く「活力ある大きな日本」を目指すものです。
 この場合、21世紀前半中に2,000万人を越える数の外国人を受け入れる必要があると考えられます。

 この二つの道、つまり現行の国家体制の基本を維持するのか、それとも多民族から構成される新しい国家体制へ移行するのか、そのどちらを選ぶかについて国民的大論争を早急に始めてほしいと願っています。
 21世紀の日本が大量の外国人を受け入れる政策をとる場合には、日本の欲する有能な外国人が進んで移民したいと希望する「外国人に夢を与える日本」に変身することが課題となります。そのためには、日本人の外国人観を根本的に改める必要があります。多様な価値観を認め合う、日本民族と異民族が共存する日本社会を目指すことになります。
 国籍、民族的出身を問わず、すべての人の機会均等を保障し、努力した人が正当に評価され、高い社会的地位を得ることができる社会を作らなければなりません。
 総じていえば、今の日本は、外国人が多方面で才能を発揮できる国とはいえません。残念ながら、外国人に閉鎖的な社会であり、国民が外国人に抱くイメージは良くないといわざるを得ません。

 現在のままで外国人の大規模な受入れが行われた場合、文化摩擦などを背景として日本人と外国人の衝突が起きたり、日本人の間で外国人排斥の動きが出て来るのではないかと心配されます。異なる民族間の相互理解と融和は、並大抵の努力では達成されないものだからです。
 人口の約9%を外国人が占めるドイツでは、アフリカ、アジア系外国人が極右による外国人排斥のターゲットとなる事件が相次ぎ、統一後10年で犠牲になった人は100人近くを数えます。このような不幸な事態に日本が陥ることは、絶対に避けなければなりません。
 日本人が外国人に依存して日本の経済的繁栄を維持するという立場をとるのであれば、「多民族が共生する日本」への転換を図ることが最大の課題となります。
 例えば、国は、原則として外国人の権利を日本人と同等に認める新しい外国人観に基づき、外国人と日本人の融和を図ることに主眼をおいた行政を推進していかなければなりません。しかし、いかに外国人受入れ態勢を整えたとしても、民族間の確執を防止し、多民族を一つの国民国家秩序の下にいかにしてまとめていくのかという非常に困難な課題を日本人と日本国は背負うことになります。

 先に私は、在日韓国・朝鮮人がこのまま何もせずにいれば自然消滅すると述べましたが、このような事態は在日の人たちの利益に反するのみならず、日本にとっても大きな損失です。
 日本国民が「大きな日本」すなわち「多民族国家への道」を選択する場合には、古くから日本に住み、日本人との付き合いの長い民族集団として、在日韓国・朝鮮人が重要な役割を担ってほしいと思います。100年間数世代にわたって日本社会の中で民族的少数者として生きてきた立場から、「多民族が共生する日本社会」を作る事業に参画してほしいと希望します。
 在日韓国・朝鮮人は、多様な民族集団が理解し合い共に生きる社会を実現する上で、日本社会のどこが問題なのかについて、自らの生活経験に基づき貴重な提言を行うことができます。その一方で、在日経験の長いオールドカマ−の立場から、ニューカマーの人たちに助言をし、あるいは苦言を呈することができます。
 そのような貢献が期待される在日韓国・朝鮮人が生き延びるためにも、民族名を名乗って朝鮮半島出身者としてのアイデンティティを長く持続してもらいたいと願っています。
 同時に日本人は、在日の人たちが民族名を名乗って堂々と生きることのできる日本社会を作らなければなりません。来るべき多民族社会において、在日韓国・朝鮮人が民族名を名乗り独自の民族集団として存在していること、それだけでも大きな意味があると思います。

 一方、国民が「小さな日本」を選ぶ場合には、日本社会において在日韓国・朝鮮人は民族的少数者としての存在感が一層増すのではないでしょうか。
 在日韓国・朝鮮人関係の運動体は、これまでは主として、日本社会の差別構造を告発し、その是正を求める運動を行ってきました。これからは活動の舞台を広げ、すべての在日外国人と日本人が協力し合って生きる日本社会を作るための運動を展開してほしいと希望します。
 ニューカマーの人たちと日本人が良好な人間関係を築き共存する日本社会が実現すれば、そのような社会は、在日の人たちにとっても住みよい社会となるに違いありません。

 多民族共生人権教育センター理事長の李敬宰氏は、「すべての『外国人』が積極的に社会に参加し、『多民族共生社会』を実現するには、在日韓国・朝鮮人が大きな役割を果たすことが期待される」と述べておられますが、まさに正論です。
 「多民族共生人権教育センター」が、在日外国人に対するあらゆる差別を解消するための啓発及び教育・研究活動を行い、多民族共生社会の実現に寄与されることを大いに期待しています。

 

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