北京五輪が閉幕した。
204の国と地域から1万人を超す選手が参加、302個の金メダルをめぐる力と技と美の競演を繰り広げた。厳重な警備に守られての「平和の祭典」ではあったが、心配されたテロなど大きな混乱はなく無事に閉幕したことを喜びたい。
国家の威信をかけて臨んだ開催国・中国が予想通りの強さを見せた。前回アテネ五輪では米国に次ぐ2位の32個の金メダルだったが、今回は51個に達し2位の米国に大差をつけた。総メダル数では米国に及ばなかったものの、「スポーツ大国」としての存在感を世界中に強烈に印象づけた。
スポーツ強国によるメダル競争とは別に、メダルを獲得した国・地域の広がりにも注目したい。北京五輪で1個以上のメダルを持ち帰る国・地域は87にのぼり、アテネ五輪の74カ国・地域から大幅に増えた。
初めて五輪メダリストを生んだ国も少なくない。政情不安が続くアフガニスタンはテコンドー男子58キロ級で五輪史上初の銅メダルを獲得、インド洋に浮かぶ小国モーリシャスはボクシング・バンタム級で、西アフリカのトーゴはカヌー競技でそれぞれ銅メダルを手にした。五輪の歴史に名を刻んだ英雄たちが、スポーツの種を母国の大地に植え付け、やがて大きな実を結ぶ日がやってくることを楽しみにしたい。
陸上男子千五百メートルでバーレーンに五輪史上初のメダル、それも金メダルをもたらしたラシド・ラムジ選手はモロッコから国籍を移した「輸入選手」だった。卓球でも中国出身の選手が別の国に移り、北京五輪に出場するケースが目立った。
メダル目当ての「その場限り」の国籍移動は批判されるべきだが、選手の移動の自由も保障されなくてはならない。「輸入選手」たちが新しい国に定着し、どれだけ競技普及の力になれるか。今後が問われる。
日本は金メダル9、銀メダル6、銅メダル10の計25個のメダルを獲得した。金メダル16個、総メダル37個だったアテネ五輪を大幅に下回った。残念ではあるが順当な結果なのだろう。
マイナー競技と見られてきたフェンシングの太田雄貴選手の銀メダルや、体操男子の内村航平選手の個人総合銀メダルなど4年後が楽しみな新鋭も飛び出したが全般に「アテネ五輪の遺産」で戦った印象が強い。
個人種目の7人の金メダリストのうち6人はアテネ五輪優勝者だった。世代交代がうまく進んでいない表れでもある。スポーツ界の悲願だったナショナルトレーニングセンターも完成し、その成果は4年後に問われる。ロンドン五輪に向けて若手をどう強化するか。日本の課題だ。
感動のドラマの続きは4年後のロンドンに引き継がれる。夢の舞台を目指す世界の若者たちの新たな挑戦を楽しみに見守りたい。
毎日新聞 2008年8月25日 東京朝刊