九月の民主党代表選は、小沢一郎代表が無投票で三選される見通しになった。衆院選が近づいているだけに、選挙による党内亀裂を避け、結束を重視したのだろう。
代表選は、複数候補による活発な政策論争を通じて民主党の政権構想を有権者に訴える絶好の機会である。無投票では政権奪取に向けた盛り上がりを欠くことにならないか。開かれた党ではなく、内向きとのイメージも広がりかねない。
党内には、無投票は好ましくないとの認識から対抗馬擁立や立候補の動きがあった。だが、立候補を検討していた野田佳彦広報委員長と枝野幸男元政調会長は相次いで出馬断念の意向を示した。鳩山由紀夫幹事長ら党執行部やベテラン議員が小沢氏支持を表明していて、小沢氏優位が揺るがず、勝ち目がないと判断したようだ。
野田氏は出馬断念に「小沢先生の胸を借り、この国のあるべき姿を語りたかった。それを党躍進のきっかけにしたかった」と悔しさを隠さなかったとされる。政策論争を封じ込めたのは、寄り合い所帯とされてきた民主党が抱える安保や経済政策をめぐる路線対立を鮮明にしたくないという意見が党内を圧倒したからだろう。挙党一致に走ったといえよう。野田氏のいうように代表選で堂々とした論戦を聞きたかったのに残念だ。
忘れてならないのは、次の総選挙で民主党政権が誕生すれば、民主党代表が首相になることだ。福田改造内閣の発足を受けて共同通信社が八月初めに行った全国緊急電話世論調査によれば、支持する政権の枠組みは「自民党中心」が3・6ポイント上昇したものの34・8%にとどまったのに対し、「民主党中心」は2・9ポイント増の48・2%と半数近くに上った。だからこそ、複数候補による開かれた政策論争を通じて政権担当能力を示すのは民主党の責務であろう。
小沢氏は、昨年夏の参院選を勝利に導いた指導力には定評があるものの、党首討論に積極的でないなど国会の対応には批判がつきまとう。政治手法も強権といわれ、首相として適任かどうかも問われている。
次期衆院選のマニフェスト(政権公約)では、最重要項目として、これまでの年金や子育て、農業に加え、医療、道路、分権、行革を新たに打ち出す方針を固めたとされる。財源については行政の無駄一掃などで生み出すとするが、裏付けに欠け、説得力に乏しい。党内議論を深め、丁寧な説明をしていくことで民主党の支持は広がろう。
国際宇宙ステーションに建設中の日本の実験棟「きぼう」の船内実験装置を使った科学実験が始まった。無重力など宇宙特有の環境を生かし、地上ではできない実験を行っていく。成果が期待される。
最初の実験は液体中の温度差によって生じる特殊な対流現象の測定である。地上では重力の影響で正確な測定が難しい。さまざまに条件を変えながら、十月下旬まで実験を行う。
宇宙航空研究開発機構は対流実験に続き、本年度はカエルの腎臓細胞を培養する実験や、水が凍る際に結晶が枝分かれする過程の分析実験などを計画している。必要な時には長期滞在中の米国人宇宙飛行士らの助けを求めるが、実験の多くは茨城県つくば市の宇宙機構筑波宇宙センターからの遠隔操作で行われる。人工衛星や探査機で培った日本の管制技術が試される機会ともいえる。
米スペースシャトルで来年運ばれる船外実験設備を接続し、きぼうが完成すれば、宇宙空間に直接実験・観測装置や試料を置き、中性子やプラズマなども調べられるようになる。また、来年は若田光一さんと野口聡一さんがステーションに長期滞在する予定だ。日本人飛行士がいれば実験もはかどろう。
宇宙機構は二〇一〇年秋までにきぼうで行う実験として約三十のテーマを選定している。きぼうに対し日本は今までに約七千億円を拠出し、今後の見込み分も含めると投資総額は一兆円にもなる。巨額の費用に見合う実験成果が求められる。
今回始まった実験で対流の詳しい仕組みが分かれば、半導体の製造などに役立つとされる。宇宙機構は、各種宇宙実験の成果を確実に地上の産業技術に生かすための取り組みにも一層力を入れる必要がある。
(2008年8月24日掲載)