「日本がボクを育ててくれた」−−。24日の北京五輪男子マラソンで優勝したケニア人ランナー、サムエル・ワンジル(21)は、日本語で感謝の言葉を口にした。強さの土台を築いたのは、留学先の仙台育英高校(仙台市)。恩師の渡辺高夫前監督(61)の教えを思いだし、「渡辺先生にはきつくても、我慢することを学んだ。『ガマン、ガマン』ね」と語った。
ワンジルは02年春、素質を見込まれてケニアから15歳で来日。駅伝の強豪、仙台育英高で、渡辺さんの指導を受けた。全国高校駅伝(京都市)では、3年連続で区間賞を獲得し、2度の優勝に貢献した。
仙台市でテレビ観戦した渡辺さんは、教え子の快挙に大喜び。「彼が入学して3カ月で、五輪でメダルを取る選手だと感じ、2年の秋にそれを確信した」という。“ガマン”を教えたことについて「速く走ることには優れていたが、私が徹底したのは我慢して遅く走ること。スタミナを温存しないと、駅伝の主流になるスプリント勝負に勝てないと思ったから」と話した。
レースの2日前にはワンジルから電話を受けた。「中間は我慢。35、36キロが勝負」とアドバイスした渡辺前監督に、ワンジルは「分かっている」と答えたという。そして、言葉通りのレースを北京で展開した。
もう一人の日本の恩師は、所属先のトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)監督で、92年バルセロナ五輪男子マラソン銀メダルの森下広一さん(40)。その指導を受け、マラソンの才能を開花させた。ワンジルは「森下さんは『自分は銀メダルだったから、金が見たい』と言っていた。『森下さんに金メダルを見せたい』と考えながら走った」という。
同社には五輪前に退職願を出しており、新たな道に踏み出す。「彼ほどの選手が、本当にここにいていいのか」と感じたことがある森下監督も、その決断を受け入れる方針。「勇気を与えてくれたことに感謝している」と話し、快挙をたたえた。【北京・藤野智成、栗林創造、百留康隆】
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