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2008年8月18日付

医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に関する意見書

 

平成20年8月12日

医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に関する意見書

社団法人日本内科学会 理事長 永井良三
社団法人日本消化器病学会 理事長 跡見  裕
社団法人日本肝臓学会 理事長 井廻道夫
社団法人日本循環器学会 理事長 小川  聡
社団法人日本内分泌学会 理事長 中尾一和
社団法人日本糖尿病学会 理事長 門脇  孝
社団法人日本腎臓学会 理事長 槇野博史
社団法人日本呼吸器学会 理事長 貫和敏博
社団法人日本血液学会 理事長 池田康夫
有限責任中間法人日本神経学会 理事長 葛原茂樹
社団法人日本アレルギー学会 理事長 西間三馨
社団法人日本感染症学会 理事長 砂川慶介
社団法人日本老年医学会 理事長 大内尉義


「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案(以下、第三次試案)」に対する意見書で述べたごとく、現在のわが国の医療現場の混乱は、(1) 「届け出るべき医療事故」が曖昧な中で、医師法21条に定められた異状死を医療関連死に適用したこと、 (2) 医療関連死に関して医療専門家が主体となって判断する公的機関がこれまで設置されてこなかったこと、の2点が大きな原因と考えられる。この状況を改善し、医療の透明性を高めると共に、医療事故に対する警察の介入をできるだけ抑制するためには、医療関連死を届け出る機関の設置と、警察による捜査に先行して医療専門家が公的かつ主体的に事案を調査する中立的第三者機関の設置が必要である。しかしながら医療は不確実な面があり、誠意をもって行なった医療行為が結果次第で刑事責任を問われることのないよう慎重な運営が必要である。医療行為に関連して発生した死亡に対して刑事責任を問うことは、故意および重過失に相当する悪質な医療に限定される必要がある。本大綱案は下記のような問題点を含んでおり、十分な議論と慎重な検討が必要である。

  1. 「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」(以下、大綱案)は第三次試案の内容を踏まえ、法律案の大綱化をした場合のイメージとされているが、第三次試案との関係が必ずしも明らかでなく、両者の関係について詳細な説明が必要である。とくに本年6月に公表された大綱案には第三次試案(別添)が添付されており、その表紙には「本試案の内容は、厚生労働省、法務省及び警察庁の間で合意したものである」と書き加えられている。しかしながらこの第三次試案(別添)は、本年4月に公表された第三次試案(原文)とは異なる文書であるため、その位置づけを明確にすべきである。また「厚生労働省、法務省及び警察庁」の間の合意の範囲と法的根拠、実効性についても明らかにすべきである。
  2. 「遺族からの医療事故調査の求め等」(第15)において、遺族が担当大臣に申し出ることなく病院を刑事告訴した場合、警察は調査委員会に調査を依頼せずに独自に捜査を行うのか不明である。まず当該警察から担当大臣宛に連絡をして地方調査委員会の判断を仰ぐのが適切である。また、刑事責任の対象となる医療行為は、故意、隠蔽、改竄、重過失に限定されるべきで、その実体的基準を明確にする必要がある。とくに、標準的医療行為からの逸脱がすべて重過失とならないよう配慮が必要である。
  3. 医療過誤関連死亡を医師法21条のなかで届け出ることになっているが、同条項は医師が行った医療行為とは無関係の、自殺や犯罪による異状死に限定すべきである。すべての医療関連事故死について警察の捜査と無関係な届け出条項を作るべきである。
  4. 調査委員会への届出の基準の明確化が必要である。また、医療機関の判断により担当大臣に届出を行なわなかった場合、後日、医療事故と判定されても届出義務違反を問われない事を明確にする必要がある。
  5. 第三次試案に記載されながら、大綱案には記載されていない事項(例えば、「医療従事者等の関係者が地方委員会からの質問に答えることは強制されない」(第三次試案(27) D))について、どのように取り扱われるのか、明らかにすべきである。また、調査委員会において発言しなかったことが隠蔽とされたり、あるいは発言内容を偽証とされることのないよう法的配慮が必要である。
  6. 第25「警察への通知」において、「故意による死亡又は死産の疑いがある場合」については問題ないものの、「標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡の疑いがある場合」は依然として曖昧さが残り、具体的な判断は困難である。複雑な医療現場の状況に対応できるよう、専門科もしくはそれぞれの医療機関の事情に応じて「標準的な医療行為」について概念を明確にするとともに、警察への通知は、「故意による死亡又は死産の疑いがある場合」以外には、重過失に相当する「悪質な医療」に限定されるべきであり、その実体的基準を明確にする必要がある。
  7. 「中央調査委員会及び地方調査委員会の委員は、独立してその職権を行う」(第5)と規定されているが、中央調査委員会の判断はどこまで捜査機関により尊重されるのか不明である。中央調査委員会が悪質と判定しなかった医療事故については、捜査機関は捜査の対象としないことを明確にする必要がある。
  8. 医療事故は医療制度や医療提供体制の問題と密接な関係があり、医療事故の防止には医療制度改革が必須である。従って、医療安全調査委員会は独立性を確保し、厚生労働行政に対して勧告することが出来、また必要に応じて厚生労働省あるいは関係行政機関へ提言できることが必要である。厚生労働省外への設置も含め、独立性のある委員会として検討することが必要である。
  9. 本システムを円滑に運営するためには、膨大な数の人材と経費が予想され、十分な予算措置のなされる必要がある。付帯事項としてこの点を明記すべきである。

以上