県立医大付属病院紀北分院(かつらぎ町)が、2010年9月開院を目指して建て替えられる。診療体制も一新し、中でも新設の「スパイン(脊椎(せきつい)・脊髄(せきずい))センター」が注目だ。「脊椎はなかなか治らない」などと、痛みや不安に苦しむ患者にとって期待は大きい。どんな病院を目指すのか、同分院副院長で整形外科脊椎外科医の川上守教授(53)に聞いた。【上鶴弘志】
「使命は、複雑な脊椎機能障害を持つ患者に、安全で、最もいいタイミングで治療を行う、患者中心のケアです」と言う。脊椎機能障害を引き起こす疾患は、腰痛、肩こり、首の痛みなどの軸性疼痛(とうつう)性疾患、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄(きょうさく)症など多様で、原因は複雑。日本人に多い腰痛は、MRI(磁気共鳴画像化装置)などの先端医療機器を使っても、確実な原因は15%程度しか分からないという。
「直接の専門医だけでは限界があり、本当の原因を見逃してしまう恐れもある」と川上教授。特にMRIなどの画像に頼り過ぎるのは危険。そんな場合、手術は成功したのに痛みはなくならない、というケースもある。「『障害は取り除かれている。もう来なくてもいい』と医者に言われたが、まだ痛い」と頼ってくる患者もおり、「患者の訴えこそが真の原因を突き止める手がかり」と話す。
新分院は、プライマリケア(総合診療)=内科、神経内科、小児科など▽同センター=整形外科、脳神経外科、リハビリテーション科▽緩和ケア=神経精神科、麻酔科(ペインクリニック)と、診療機能別に三グループに分ける。各科の壁を取り外したチーム医療と専門外にも精通した医師の育成が狙いだ。
同センターでは、豊富な症例研究に基づく高度医療を提供するとともに、術前術後の患者の心の問題や痛みのコントロールなどチーム医療の利点を最大限に生かす。特に一人一人原因や症状の異なる患者に対し、医学的根拠を示しながら治療をするためには、原因をあらゆる面から追究し証明する神経内科の役割が大きいという。
「患者中心の医療とは、患者の声に耳を傾け、患者と一緒に病気と闘うこと。そのためには、すべての医師と理学療法士、看護師などが一体となって取り組むことが重要です」と、力を込めた。
毎日新聞 2008年8月24日 地方版