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突然の母の死 待ち続ける病院の答え

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骨折で入院したのになぜ・・・


お母さんの遺影と病院からの回答を前に、悔しさを募らせる女性。「このままでは母が浮かばれない」

 「1年前、母が亡くなったときの病院の対応に疑問が残り、心の傷が癒えません」。こんなお手紙が大阪府吹田市の女性(58)から届きました。「泉」では6月、患者の遺族に医療ミスを隠してきた元病院職員の告白を紹介しました。それを読み、筆を執ったという文字の震えに底知れぬ悲しみを感じ、お会いすることになりました。

 女性は幼い時分に父親を亡くし、約20年前に離婚してからはお母さん(当時82歳)と妹の3人で暮らしていました。そのお母さんが昨年7月、洗濯物を干していて転び、腰を骨折してしまいます。

 入院したのは府北部の民間総合病院。「当初から首をかしげること続きだったのです」と、女性は病院でのできごとを話し始めました。

 百貨店の勤めを終えて見舞うと、朝に着けたおむつが交換されていなかったことはしばしば。食事用のスプーンが汚れたまま出されたこともありました。お母さんは60歳代で心臓病を患い抗血栓薬の錠剤を服用していたそうですが、その病院では「これしかない」と粉薬しか処方してくれません。苦くて吐き出してしまうことが続き、やがてお母さんは「家に帰りたい」と漏らすようになりました。

 入院から1か月。日に日に口数が減り、元気を失っていくのを見かねて、女性が転院先を探し始めたころでした。抗血栓薬を飲めない日が続くお母さんについて、医師は「脳に血栓ができているかもしれない」と、コンピューター断層撮影法(CT)での検査を勧めました。

 ところが、事態は急変します。検査を終え、車輪付きベッドに寝かされて病室に戻ってきたお母さんに、女性は「気分は?」と声を掛けますが、反応がありません。お母さんは息をしていなかったのです。付き添ってきた院長の顔色が変わりました。

 「どういうことなんですか」。女性が説明を求めました。すると、院長は開口一番、「裁判をしますか」。女性は耳を疑いました。

 意識が戻らぬまま、お母さんは3日目に亡くなりました。死因は多臓器不全。「骨折で入院したのになぜ」。悔しさと不信が募りました。

 女性は姉妹で弔いを済ませた後、病院に死亡の経緯を詳しく尋ねる質問状を出します。ところが、返事は「懸命に治療しましたが、患者様やご家族の苦しみ、不安を感じ取れず、反省しています」というだけの内容でした。

 女性は慰謝料などを求めているわけではありません。「なのに、この木で鼻をくくったような文面。命を扱う病院の態度なの」。女性は悲しみが増し、納得できずに再度ただす文書を出しました。

 先月末、一周忌を前にお母さんの散歩仲間ら約10人が集まり、仏壇の前で思い出話をしてくれたそうです。「笑顔のかわいい人やったね」と。

 「もしかしたら母は今も元気に笑っていたのではないか」。女性はそんな思いをぬぐえないまま、病院側の答えを待ち続けています。

2008年08月24日  読売新聞)
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