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【社説】

週のはじめに考える ばらまきが招く不公平

2008年8月24日

 福田康夫政権が景気対策の策定を急いでいます。財政出動の気配が強まっていますが、なぜ「ばらまき」政策は悪いのか。問題点を整理してみます。

 米国の住宅ローン問題を背景にした世界的な金融不安に加え、原油や食料の高騰が重なって、景気後退色が強まっています。

 日銀の白川方明総裁は最近の会見で「景気が停滞している」との認識を示しました。日本だけでなく、米国や欧州もマイナス成長に陥っています。世界経済は下り坂を駆け降りている状態で、終点はまだ見えていません。

 長期金利の上昇懸念も

 こうした情勢を受けて、政府や与党の中から、緊急の景気対策を求める声が噴出しました。すでに燃料費の高騰にあえぐ漁業対策として、値上がり分の九割を事実上、政府が直接補てんする方針を決めるなど、福田政権は「ばらまき」批判もあえてのみ込んで、財政出動に動く構えです。

 麻生太郎自民党幹事長は二〇一一年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を達成する財政再建目標の先送りに言及し、小泉純一郎内閣から続いた三十兆円の新規国債発行枠にもこだわらない考えを示しました。

 保利耕輔政調会長に至っては、景気対策の財源を赤字国債の増発で賄う可能性すら示唆しています。

 たしかに、景気後退がはっきりしてきた以上、なんらかの対策を考えるのは政府の役割です。しかし巨額の財政赤字を抱え、やみくもに財政出動に動くわけにはいきません。赤字累増が長期金利の上昇につながれば、かえって景気に悪い影響を与えるからです。

 では、望ましい景気対策とは、どのような姿なのか。まず確認しておきたいのは、政府とともに日銀の役割です。

 恩恵は「特定層」だけに

 近い将来の総選挙が頭にちらつくせいか、メディアの視線も福田政権に向きがちですが、景気を支える金融政策の重要性は財政政策に勝るとも劣りません。

 財政政策は決定してから実行するまで国会審議が必要で時間がかかるのに対して、金融政策は決定すれば直ちに発動できます。景気の現状認識では政府と日銀に差がないようなので、ここは政府と連携して、日銀も金融緩和を真剣に検討する必要があるでしょう。

 そのうえで、なお財政政策を考えるなら、政府与党にはぜひ、しっかりと踏まえてほしい原則があります。特定層に恩恵を与える政策ではなく、国民全体に広く恩恵をもたらすような政策でなければならないという点です。

 「ばらまき」とは何か。

 どうも定義をしっかりと詰めないまま、安易に言葉が使われているようですが、ここでは「ばらまき」を「特定の産業や企業層、家計層に恩恵を与える財政政策」と定義します。ちなみに、永田町では歳出拡大だけが財政出動で減税は別、と考える向きもありますが、両方とも財政政策です。

 歳出拡大にせよ減税にせよ、特定層への恩恵を狙った政策は、まず政府が間違いを犯しやすい。景気後退でだれが打撃を被っているのか、を正確に判断するのは難しいからです。

 漁業者は分かりやすい例であっても、では、ビニールハウスで野菜や果物を生産する農家はどうなのか。これから冬に向けて、寒冷地の住民は。燃料費がかさむのは同じです。政府系金融機関を使った中小企業への信用保証拡大も、零細企業や個人事業主には恩恵がない。

 結局、メディアが派手に取り上げたり、政治的に声が大きい産業や企業層に予算が配分される結果になりかねない。それでは不公平です。

 「弱者に優しい政治」と言えば、いかにももっともらしいのですが、その裏側で巨大な不公平や既得権益が発生しかねません。

 それに、肝心の政策効果にも大きな疑問符がつきます。

 政府が特定層に恩恵を与えれば、恩恵を受けた企業や家計の経済行動が変化して、市場経済の効率性が損なわれます。結果として、経済全体が非効率になって生産性の上昇には結びつきません。

 漁業者への直接補てんのような介入政策はつまるところ、一時のカンフル剤にはなっても、長期的に日本経済全体の体質強化にはつながらないのです。

 財政で当面の景気を支える効果を狙うなら、特定層ではなく国民全体や企業全体に差別なく恩恵がゆきわたる政策が望ましい。

 声が大きいと得はダメ

 たとえば、所得税に税額控除を新設すれば、所得税を納めている国民全体に恩恵があり、かつ中低所得層に手厚くなります。

 声が大きいものが「ばらまき」で得をする。そんな政策には、きっぱりと「ノー」と言わねば。

 

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