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社説 外国人の子ども受け入れに備えを急げ 人材開国を考える(8/24)

 多くの学校現場が今、外国人の子どもの教育をめぐる悩みを抱えている。日系ブラジル人をはじめ様々な形で日本にやってくる労働者の子どもをどう就学させ、日本語指導などをいかに進めるべきか。政府には総合的な指針がなく、自治体や学校が孤軍奮闘しているのが実情だ。

 専門教員養成の道探れ

 外国から人材を受け入れるということは、どんな人材をどの程度まで受容するか、それが定住や永住につながるかどうかを別にして、彼らの子どもへの教育にもかかわる問題である。まず現状を直視し、将来への備えを早急に築かねばならない。

 文部科学省の調べでは、公立の小中高校に在籍する外国人の児童生徒は約7万人。このうち日本語指導が必要な子どもは昨年9月時点で約2万5000人に上る。前年度に比べ13%の大幅増だ。こうした現実はすでに教育現場を突き動かしている。

 たとえば外国人が人口の16%ほどを占め、全国の市町村で最も比率の高い群馬県大泉町。子どもを伴った日系ブラジル人らの増加を受け、町立の全小中学校に日本語学級を設けたのが特徴だ。町費でポルトガル語などができる日本語指導助手を雇っているほか、県も教員を増員して町の取り組みを支援している。

 指導内容も手づくりだ。教育委員会考案のテキストを使い、初期、中期、後期の3段階に分けて言語指導と適応教育を並行して進めている。中学校卒業までに日本社会への適応がほぼ可能になるといい、今春の高校進学率は90%を超えた。

 地域でこんな取り組みが進む一方で、国の対策は始まったばかりだ。そのひとつが、文科省の有識者会議が最近まとめた報告である。報告は(1)教育委員会やボランティアによる就学支援(2)総合的な日本語指導のガイドライン開発や指導教員の育成(3)地域社会による放課後の「居場所」づくり――などを提言した。

 具体策に乏しく、実現への道筋もあいまいだが、これでも過去にない提言だという。このこと自体が国の対策の遅れを示しているが、報告が外国人子女対策の課題を浮かび上がらせているのも事実だ。

 まず根本的な問題は、学齢期なのに就学しない子どもも多く、現場でもその実態を十分に把握できないことだ。保護者の認識不足だけでなく、転出や帰国を把握しきれない外国人登録制度の不備も背景にある。

 就学後の課題も山積している。有識者会議は日本語教育カリキュラム「JSL」の普及などを提唱しているが、これを一般の教員が使いこなすのは難しい。大泉町のような独自のプログラムもしっかりした担い手なしには機能しない。日本人の子どもへの異文化理解教育も必要だ。

 こうした要請にこたえるためには、国も本気で外国人子女教育のための人材養成を考える必要がある。自治体が自力で一定の成果を収めているにせよ、現場任せには限界があろう。専門教員などの育成はコストと時間がかかる施策だけに、効果的な手立てを探らなければならない。

 同時に、使い勝手のよいカリキュラムを開発し、学習指導要領などに盛り込む必要もある。米国などでは言語指導を中心にした多様なプログラムを用意し、子どもたちが社会に適応するのを支えている。内外の様々な取り組みを参考に、指導内容と方法の確立を急ぐべきだろう。

 高度人材の子女対策も

 外国人の子どもが、これまでのように特定の学校だけに集中しているならここまでの体制整備は必ずしも必要ではないかもしれない。しかし現実は大きく変わりつつある。

 文科省の調査では在籍人数が4人以下の学校が約8割を占め、様々な地域や学校に分散する傾向が出てきた。在籍する学校数も増え続けている。もはや一部の集住都市だけの問題ではないと覚悟すべきだろう。

 将来、もし単純労働者を本格的に受け入れるとすれば子どもの教育は極めて深刻な課題となるし、そこに至らない段階でも日系人などの流入は続く。現時点でしっかりした対策を打ち出しておくことは、将来にも必ず生かされるはずだ。

 一方で高度人材は政府が今後も受け入れを進める方針で、日本への留学生についても卒業後にそのまま日本で働けるよう規制緩和を促す動きもある。その子女が漸増するのに備えて、英語を軸とした教育機関を整備するのも怠ってはならない。いわゆるインターナショナルスクールへの積極的な支援も必要だろう。

 外国人の力を借りる以上、たんに労働力だけを借用して済ませられるだろうか。人材開国の行方は、日本社会が外国人の子どもたちに十分な教育を施せるかどうか、その備えがあるかどうかにもかかっている。

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