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社説:視点 どうした知事 「負担こわい」では分権は進まぬ=論説委員・人羅格

 改革派知事が脚光を浴びたひところの勢いはどこへ行ったのか。福田内閣で地方分権改革の議論が進む中、都道府県知事の熱意がいまひとつ感じられない。本来は一番の応援団になるはずなのに、地方に権限が移ってもカネや人員の負担を押しつけられないか、との不安が先だっているのだ。

 国の出先機関の地方への移管、統廃合論議が本格化するが、都道府県から慎重論が出て頓挫する、との見方すらある。そうなれば中央省庁の思うつぼにはまり官僚がほくそ笑むだけだ。知事の踏ん張りどころである。

 最近の知事のあり方に疑問を呈したのは寺田典城・秋田県知事だ。先月の全国知事会議について「要求、要請だけでやっていけるのか」と懸念を表明。「霞が関(中央省庁)の課長級会議より(レベルが)落ちると批判されている」と評し、麻生渡会長(福岡県知事)が「評論家みたいなことを言ってはいけない」と反論する事態となった。

 地方交付税の増額など知事会が従来型の主張に流され、改革をリードする議論が不足している、というのが寺田氏の指摘だろう。確かに政府の地方分権改革推進委員会が地方への権限移譲の勧告を5月にまとめた際、地方側の動きは鈍かった。

 国の出先機関の見直しもそうだ。知事会は最大約7・5万人の地方移管が可能と提言したが本音はどうか。毎日新聞のアンケートによると、焦点となる国土交通省の地方整備局や北海道開発局の組織見直しに賛成した知事は約6割どまり。多くは地方移管の際「裏打ちとなる財源の確保」への疑問を強調した。

 その背景にあるとみられるのが小泉政権時代の「三位一体の改革」が与えたトラウマだ。現総務相の増田寛也岩手県知事、浅野史郎宮城県知事(当時)らいわゆる改革派が主導した「闘う知事会」路線の下、知事会は国と協議の場を設け渡り合った。国から3兆円の税源をもぎ取ったが、抱き合わせで地方交付税が5兆円削られるなど、結果的に負担が増えた。アンケートでも38知事が三位一体改革を「評価できない」と答える。この経験が「分権論議には要注意」との心理を生んでいるのだ。

 かと言って、「負担がこわい」と手をこまねいていては改革は進まない。地方整備局見直しの前提となる国道、1級河川の地方移管について、国交省は都道府県と個別に協議して揺さぶる構えだ。知事会はそれこそ財源、人員とセットで権限移譲の具体案を作り、世論に訴え結束すべきではないか。問われているのは分権への気概である。

毎日新聞 2008年8月24日 東京朝刊

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