ひとつの道に打ち込み、ひたむきに努力してきた人の発する言葉には、胸を打たれる。北京五輪に出場した選手たちの試合後のインタビュー。語る一言、一言に、それぞれの思いが込められており、心が揺さぶられた。
「馨と歩んできた道は最高だった。その道を歩んでこられたことが私の誇り」。そう言ったのは「姉妹で金」を目指したレスリング女子の伊調千春選手。夢はかなわなかったが、表彰台では笑顔で銀メダルを首にかけた。「レスリング、ありがとうございました」とも語った。ひとつのことをやり抜いた人でなければ言えない言葉だ。
決勝の残り8秒で中国選手に一本を取られ、逆転負けした柔道女子の塚田真希選手は「これが結果です」。守りに入っていれば勝てていたかもしれない。だが、攻め続けた。最強のライバルとの決戦を堂々と戦った。「悔しいです」と言った後に、絞り出した言葉で結果を受け止めた。
「これが僕の仕事なので」と照れたように話したのは、日本勢の金メダル第1号となった柔道男子の内柴正人選手。その「仕事」を成し遂げるために、どれだけの辛苦を乗り越えてきたことか。一本勝ちを決めた後、スタンドに向かって妻子の名前を叫び続けた。
努力は報われなければならない。しかし、勝負の世界では誰もが報われるわけではない。だからこそ、厳しい結果でもそれを受け入れ、自分の歩んできた道に誇りを持てる選手が輝いて見えるのだろう。日々努力を積み重ね、全力を出し尽くすことの大切さをあらためて思った。
(高松支社・吉田稔)