京都議定書に定めのない二〇一三年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み(ポスト京都)を協議する、気候変動枠組み条約の特別作業部会がアフリカのガーナで開かれている。
七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)以降、先進国と途上国が初めて交渉のテーブルに着いた。先進国だけが負っている排出削減の義務を途上国を含めたすべての国に広げられるかどうかが焦点だ。
ポスト京都をめぐっては、来年末にデンマークで開かれる同条約の第十五回締約国会議までに内容を決め合意しなければならない。議論を加速させる必要があろう。
サミットで主要国は、五〇年までに世界の温室効果ガスの排出量を少なくとも半減するとの長期目標について、同条約の全締約国が共有することを求めるとする首脳宣言に合意している。サミットの成果を世界の共通認識にできるかが問われる。
しかし、ハードルは高い。排出量半減を実現するためには、途上国の対応が不可欠だが、中国やインドなど排出量の多い途上国は先進国の率先取り組みが先決だと主張しているからだ。京都議定書を批准していない米国に気兼ねして、先進国がサミットで具体的数字を盛り込んだ中期目標を打ち出せなかったことへの批判も強い。
日本政府は国別の削減目標の決め方について「セクター別アプローチ」を提案している。省エネなどが国際的に進んでいる鉄鋼やセメント業界、各国の状況が異なり比較が難しい発電や運輸業界、国ごとの対策が必要なオフィスや家庭など、三分野(セクター)に分類し、排出削減の取り組みを行うとする。各分野ごとに可能な排出削減量を計算し、それを積み上げて国ごとの数値を決定する方式だ。
京都議定書で決められた国別の削減目標の根拠があいまいだったのと比べ、セクター別アプローチは、各国の経済状況や発展の度合いを考慮し、より公平性が確保できるとして先進国から一定の評価も得ている。途上国への省エネ技術の支援につながるメリットもあるという。
しかし、途上国は「先進国と途上国に共通の対策を求める提案だ」と警戒を強めている。主張をぶつけ合い合意点を探る努力を続けねばならないだろう。
差し迫った地球温暖化に対応するには途上国も巻き込んだ対策が重要だ。それには先進国が身をもって大幅削減の姿勢を示すことが鍵となろう。日本は先進国と途上国の協調を促し、議論をリードしていくべきだ。
派遣労働者の労災による死傷者数が大幅に増加していることが、厚生労働省の調査で分かった。二〇〇七年は製造業への派遣が解禁された〇四年の九倍近く増えており、問題の深刻さが浮き彫りになった。
短期間で職場が変わるケースが少なくない派遣労働者が、安全教育を十分に受けないまま働かされている実態が反映された結果といえよう。雇用の不安定さなどに加え、派遣労働者を取り巻く環境の大きな課題として重く受け止める必要がある。
厚労省によると、〇七年の労災による派遣労働者の死傷者は五千八百八十五人(うち死者は三十六人)に上った。労働者派遣法改正による規制緩和で、危険性の高い仕事が多い製造業への派遣が解禁された〇四年の六百六十七人に比べ八・八倍に増えた。
派遣先の業種別死傷者数は、製造業が二千七百三人と全体の半数近くを占めた。以下、運輸交通三百十六人、商業三百八人などの順だった。
最多だった製造業での仕事の経験期間は、一カ月以上三カ月未満が28・7%、一年以上三年未満が21・5%と経験の浅い人が占める比率が高かった。年齢は二、三十代が目立った。
現場での管理責任は派遣先の企業にある。だが、派遣労働者は入れ替わりが多いため使用者意識が薄くなる傾向が強く、安全教育がおろそかになりがちなことは想像できる。
厚労省は日雇いなどの短期派遣について「ワーキングプア(働く貧困層)」などの温床になっているとし、原則禁止する方向で準備している。今回の調査結果を踏まえ、派遣先企業に対し安全管理の徹底を図るのは当然だが、労働者保護の視点を重視し派遣を認める業種の在り方も再考すべきではないか。
(2008年8月23日掲載)