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知らない顔(日高ショーコ)

2008年8月15日

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表紙知らない顔 (ビーボーイコミックス)
日高 ショーコ
 (リブレ出版  ¥ 600)

 ああ、またあの有明ビックサイトでオタクの祭典・コミケが開かれるころになったわね。毎年毎年、どんな服を着ていくか何日も前から頭を悩ませて(見た目の問題ではなく、主に防寒・防暑の意味で)、始発の山手線に乗って出かけていたころが懐かしいわ。今年もまた私は舞踏会には行けないの。みなさん、楽しんでいらしたかしら。行けない私は、せめて私の偏愛分野であるボーイズラブ(BL)について語ってみようかしら。

 冒頭から気味の悪い文章ですみません。イベントに行けないぼやきをメルヘン調で語ってみました。というわけでまたまたBLです、お嫌いな方はどうぞスルーしてくださいませ。

 さて、最近人気をあげてきた日高ショーコ。切ない恋愛ものが得意で、近著「嵐のあと」(芳文社)もよいのだが、私の個人的な好みでこちらを紹介したい。

 表題作は近づきたくても近づけない、ツンデレ同士の恋愛を描いた連作なのだが、私としては同時収録の短編「初恋のひと」に注目したい。この作品は06年9月の雑誌掲載で読んだときから好感をもっていたのだが、当時まだ私は日高ショーコを個別認識しておらず、今回このコミックスを買ってようやく「あ、これ描いたのが日高だったんだ」と分かった。というか、ほかの作品と作風がまったく違うんですけど!

 「初恋のひと」が掲載された雑誌「b−BOY Phoenix」はテーマアンソロジーというもので、毎回テーマにそった漫画を集めているのだが、そのテーマというのが「不細工特集」だったのだ。不細工。ゆめゆめしい設定が売りのBLにおいて「不細工」とは! 確かに掲載された作品はいずれも不細工が登場していたのだが、その中でも日高の作品は異彩を放っていた。

 中学生だった主人公・藤原が初めて恋する相手は、丸刈りで鷲鼻、ニキビ顔に歯がでかい、という本当に不細工な野球少年・唐橋。それなのに、藤原が初恋を忘れられず社会人になって訪ねてみると、なぜか唐橋は超イケメン美容師になっていた、という話。「あのダサダサ少年が、こんなにかっこよくなるなんて」とまず私が驚いた。顔のパーツは一緒なのに、段違いにイイ男にみえる。それでまた、その変身ぶりに藤原が喜ぶのではなく当惑してしまったのに共感した。そうだよねえ〜好きになった人がかっこよく変身してたら、うれしいのもあるけどなんだか遠い存在になってしまったようで複雑だよねえ。逆に不細工になってたら純粋に悲しいけれど。

 同時収録の短編「運命のひと」もいつもの日高作品とは毛色が変わっている。わざと痛がる治療をする歯医者と、それにより自分の性癖に目覚めさせられてしまう41歳バツイチ男性。相手の性癖を見抜いて強気でせめてくる歯医者に対して、とまどいながらも落ちていくバツイチ男。ああ、オヤジ受け(BL用語で壮年男性が女役にまわること)が、山田ユギと内田かおる以外でこんなに楽しいなんて。「切ない」だけじゃない日高を今後も期待したい。

 ところでリブレ出版について書いた以上、現在腐女子(オタク女子の俗称)を猛烈にあわてさせている新田祐克の問題について触れておきたい。リブレ出版の看板作家の一人で、BL界の巨匠・新田が6月、自身のイラストにファッションブランド広告などを盗用していたことを指摘され、自らも盗用を認めた。公式サイトで「著作権への認識が甘かった」と説明、謝罪の言葉とともに、当面の作家活動自粛を宣言している。書店からは新田作品が回収され、雑誌掲載作品も今後コミックスになる見通しがないので、ネットオークションがすごいことになっているらしい。新田本人は「トレスすることが著作権侵害に当たるとは思わなかった」とのこと。その認識はプロとして甘いと言わざるを得ないが、BL界をひっぱってきた人だけに、今後、盗用イラストを描き直すなどして、また新たな作品を生み出していって欲しいと私は願っている。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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