今年初めて、8月9日を長崎で過ごした。平和祈念式典会場の片隅で、セミを追う我が子と共に午前11時2分の「その時」を迎えた▼鐘の音が四方から響く。船の汽笛も遠くから届く。5歳の息子も、セミを放した手を合わせて目を閉じた。強烈な日差しの下の静寂。かつて広島の8月6日午前8時15分では「怒り」を感じたが、長崎でのそれは「祈り」だった▼被爆者代表は悲痛な体験と理想を語りかけた。一方、「あれもやったこれもやった」と“実績”を強調した福田康夫首相。その言葉は平板に聞こえた。世界唯一の被爆国のトップとして、あの祈りに応える、説得力ある決意を聞きたかった。【藤田文亮】
毎日新聞 2008年8月22日 地方版