伊那中央病院(伊那市)で救急診療の受診件数が減少している。救急部医師の減員に伴い、昨年7月から重症患者優先の診療方針を打ち出して以降、今年6月まで1年間の受診件数は1万1778件で、前年比24.9%減少した。同病院では、医療現場の危機的な状況に対する地域住民の理解が深まり、緊急性がないのにコンビニに出掛けるような軽い気持ちで夜間・休日の救急診療を利用する「『コンビニ受診』的な人が減ったため」とみている。
同病院のまとめだと、救急診療件数は平日は前年比17.5%減、休日は同30.6%減少した。受診者の減少について、同病院は▽市町村などの広報で重症患者優先の診療方針が周知された▽時間外診療の開始時間を、重症患者を除き、昨年7月から1時間半繰り下げて午後7時からとしたため、仕事帰りなどの安易な受診がしにくくなった―などを理由に挙げる。
北沢公男救急部長は、「重症患者が減ったわけでなく、明らかに軽症患者が減った。一般市民の『コンビニ受診』が減った」と話す。救急部医師の負担を軽減し、重症患者に専念する上でも、こうした傾向を歓迎し、引き続き地域住民の理解と協力を求める。
一方で、転入者や観光客、外国人など市町村の広報が浸透しにくい人への周知も課題と指摘。「企業の派遣社員らの中には、昼間は受診したくても休むとクビになる―と話す人もいる」とし、企業の理解も必要としている。
救急部医師が重症患者の診療に専念できるよう、昨年7月から受診者の多い準夜帯(午後7―10時)の軽症の急患は上伊那医師会の開業医(有志)が診療に協力。同時間帯の救急診療の2割、全体では1割に当たる1199件を診療した。
北沢救急部長は、軽症患者については「病院独自や県でも看護師による電話相談があるので、心配ならまず相談してほしい。待てるなら翌日の昼間に受診し、『コンビニ受診』は避けてほしい」としている。
救急部医師は昨年7月に2人減の3人となった。こうした中で夜間は常時2人を配置し、他の診療科医師や救急部OB、信大病院などの協力を得ながら「ぎりぎりの状態で24時間の救急診療体制を維持している」(事務部)。
常時2人の医師で24時間の救急診療に対応する理想的な体制を構築するには医師7人が必要という。同病院も2005年には7人いたが、全国的な医師不足の影響で減員が続き、医師がこれ以上減ると、「救急医療は崩壊する」という差し迫った状況にある。