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【社説】

健保解散 心配が現実になった

2008年8月23日

 西濃運輸グループ健保組合ほどの大組織が負担増に耐えかねて解散に追い込まれた衝撃は大きい。財政基盤の弱い他の健保にも波及の恐れがある。健保への医療費負担の押しつけは限界にきている。

 同グループの健保の二〇〇八年度の高齢者医療関係の負担は、前年度比六割増の五十八億円に達する。この負担増を補うには保険料率を月収の8・1%から10%以上に引き上げる必要がある。

 そうなると政府管掌健康保険(政管健保)の保険料率8・2%を超えてしまう。

 「健保組合の運営を続ける意義がなくなった」として解散し、政管健保に移ったのはこのためだ。

 負担が増えたのは、現役世代が加入する健保など被用者保険が七十五歳以上の後期高齢者への支援金、六十五歳から七十四歳までの前期高齢者への納付金を負担する制度が四月に始まったことによる。高齢者の多い国民健康保険(国保)の財政援助が狙いだ。

 このうち後期高齢者については負担と給付に一定のルールを設けたことで、ある程度負担増を抑制することができるようになった。

 問題は前期高齢者への納付金だ。「財政調整」の名のもとに健保などからの一方的な持ち出しになった。健康保険組合連合会(健保連)によると、健保全体での新制度への負担は厚生労働省の当初の見込みより四千億円多い二兆八千億円に膨らむ見通しで、この多くが「財政調整」による負担増だ。

 既に本年度に十以上の健保が解散し、今後も続出することが懸念される。約千五百の健保の九割が本年度赤字を記録する見込みで、積立金を取り崩したり、保険料率の引き上げを迫られるが、従業員の平均年齢が高く保険料率が高い健保にはその余裕がないからだ。

 健保は、疾病予防などに取り組むことで財政に余裕が生じれば、自己負担金の補助や出産一時金の増額など法定給付に上乗せした給付を行うことができる。

 健保に過度な負担を押しつけて自主性を損なえば、存在意義自体が失われる。

 政管健保に移れば上乗せがなくなるだけではない。政管健保には多額の税金が投入されており、健保からの移行が増えるとその分、国の財政を圧迫し、国民に跳ね返る。

 後期高齢者の保険料負担ばかりが注目されるが、それを支える現役世代が疲弊すれば元も子もない。老若の負担と給付のあり方、不足する財源をどう確保するかの議論と決断は待ったなしだ。

 

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