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【社説】

若ノ鵬解雇 何を教えてきたのか

2008年8月23日

 大相撲の抱える荒廃がまた明るみに出た。前代未聞の関取逮捕、解雇にはもはや言葉もない。相撲の本分を伝える指導、教育を怠ってきたツケが、ここへ来て一気に噴出したという形だ。

 なんという醜態だろうか。前頭筆頭という高い地位にあったロシア出身の元若ノ鵬容疑者が、こともあろうに大麻取締法違反で逮捕され、解雇処分となった。関取逮捕も現役力士解雇も過去に例がない。その無軌道、無自覚。言葉を失うとはこのことだ。

 それにしても大相撲の不祥事続発にはあきれるほかはない。出場停止処分に発展した横綱朝青龍問題、時津風部屋で起きた力士暴行死事件の記憶がまだ生々しく、その後も暴力事件などが続いている中で、今度は大麻である。相撲界は至るところで劣化していると言わざるを得ない。

 結局のところ、協会幹部も各親方も力士たちも、大相撲にかかわる者はどう行動すべきかという意識に乏しいのではないか。人気と注目を集めて土俵を務め、一方で伝統文化の継承も担っている者としての自覚が、いっこうに感じられないのである。部屋の個室にも吸引具を置き、周囲も気づかぬまま見過ごしているという状況は、まさしくそうした意識に欠けているのを象徴しているようだ。

 それはまた、なくてはならない指導、教育が欠落していることも表している。直接の指導にあたる各部屋の親方たち、全体を統括する協会執行部がともに役割をきちんと果たしていないのだ。ことに外国人力士には、相撲界ならではの伝統や独自の慣習、その意味などを詳しく教えねばならない。なのに、強い力士を持つことばかりにこだわって大事な教育を怠り、問題行動にも目をつぶってきたのが、今回の事件に直結している。

 危機はまた深まった。まずは相撲界全体で危機感を共有することだ。さらに、力士はどうあるべきか、どう振る舞うべきかという意識を、的確な指導と教育で徹底しなければならない。相撲の、力士の本分はどこにあるのか。あらためて自覚するところから立て直しは始まっていく。

 そのためには、相撲界でとかく目立っていた閉鎖性や独善的体質も大きく変えていく必要があるだろう。北の湖理事長以下の協会執行部には、今度こそ強い指導力を発揮してもらいたい。そして、外部の視点と識見もいよいよ必要となってきたようだ。

 

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