社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:ソフトボール 鉄腕上野に応える道を探れ

 新たな「伝説」の誕生だった。過去3度の五輪で米国の厚い壁にはね返され続けたソフトボールの日本代表が4度目の挑戦で悲願の金メダルを獲得した。

 伝説のヒロインはもちろん、決勝トーナメントの3試合、計28イニングを一人で投げ抜いた上野由岐子投手だ。2日間の投球数は413球に上った。まさに驚異的な鉄腕ぶりだった。

 決勝トーナメントで1度敗れても再挑戦が可能な「ページシステム」というソフトボール特有の試合方式が日本に有利に作用した。制度を生かし、エースにすべてを託した斎藤春香監督の決断も評価したい。

 今回の日本の「悲願の金メダル」が、ことさらにわれわれの胸を打つのは、別の事情もある。

 ソフトボールは4年後のロンドン五輪では野球とともに実施されない。野球とソフトボールの五輪からの除外が決まったのは05年にシンガポールで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会だ。

 五輪の肥大化を抑制するため、国際的な普及度の高くない競技を見直すというのが表向きの理由だったが、2競技の除外の背景にはIOCと米大リーグ機構(MLB)の反目がある。

 野球の最高峰、米大リーグは五輪に選手を派遣しないなど非協力的で、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」という新たな世界一決定戦も始めた。欧州の委員が中心になり、制裁のため野球を除外したという見方が有力だ。ソフトボールは「野球の女子版」と見なされ、一緒に押し出された。

 シンガポール総会の投票結果は後に判明し、ソフトボールの悲劇がいっそう鮮明になった。野球は「存続賛成」50票、「反対」54票だったが、ソフトボールは「賛成」「反対」とも52票の同数で、存続に必要な過半数に届かなかった。

 国際ソフトボール連盟(ISF)の台所事情も今後の苦戦を予告している。収入の9割近くを五輪からの分配金でまかなってきた。五輪からの除外で資金が途絶え、ISFの存続も危ぶまれる事態を迎える。

 16年夏季五輪での実施競技は、来年10月のIOC総会で開催都市とともに決まる。MLBの姿勢が変わらない以上、2競技の復帰の可能性は乏しいとの冷めた見方は強い。

 MLBは結果的にソフトボールを五輪からの除外に巻き込んでしまった責任を自覚し、資金面などで積極的に支援に乗り出すべきだ。

 星野仙一監督が率いる男子の野球が昨日、韓国に敗れて日本中がため息に包まれた。それだけにソフトボールの栄冠と上野投手の奮闘は余計に輝きを増す。

 上野投手の鉄腕に応える道をスポーツ関係者は全力で探るべきだ。今回の「金メダル」を最後にしてしまうのはさみしすぎる。

毎日新聞 2008年8月23日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報