大麻所持容疑で逮捕された大相撲の幕内若ノ鵬寿則容疑者について、日本相撲協会は緊急理事会で解雇処分を決めた。鈴木恒夫文部科学相が「国技といわれる相撲の世界で前代未聞の事件」と述べたように、前例のない不祥事である。現役力士の解雇は史上初めてだが、当然の処分といえよう。
若ノ鵬容疑者はロシア出身で、間垣部屋に所属していた。二〇〇五年の春場所で初土俵を踏み、〇七年の九州場所で、昭和以降では六番目の若さとなる十九歳三カ月で新入幕を果たした。若手の成長株で、今年七月の名古屋場所では西前頭筆頭だった。
事件は、若ノ鵬容疑者が落とした財布から大麻を含むたばこが見つかったことで発覚した。若ノ鵬容疑者は「六本木で外国人からもらった」と供述しており、大麻の使用を認めたという。間垣部屋にある個室や自宅から、大麻の吸引器具などが見つかっているが、若ノ鵬容疑者の二人の付け人は、相撲協会の事情聴取に対し、大麻使用について「全く知らなかった」と話したという。他に使用していた力士はいないのか、実態をよく調査しなければならない。
指導する立場にある間垣親方の責任は重い。相撲協会の理事でもある親方は今年五月、朝げいこで弟子を竹刀で殴打してけがを負わせ、減俸処分を受けている。けいこ場での暴力排除に向けて、協会が再発防止策の検討を進めているさなかのことだ。それだけに今回は厳しい処分が予想されていたが、自ら理事の辞任を申し出て受理された。甘すぎないか。
それにしても、このところの相撲界の不祥事続きはどうしたことだろう。昨年六月に起きた時津風部屋の序ノ口力士死亡事件を契機に、相撲協会は再発防止検討委員会を設け、師匠の指導法の向上や力士の心のケアなどの改革策をまとめた。改革に踏み出した中での今回の事件であり、協会の方針が力士一人一人にまで浸透しているとはとても言えまい。
国技としての伝統や美風を伝えるのは、親方の役割だ。十代後半の若者を預かり、技術面だけなく相撲界独特のしきたりや力士としての品格を教え込む。しかし、出世の早い外国人力士は十分な教育を受けずに番付を駆け上がる。上位の力士がものをいうのも相撲界で、横綱朝青龍の一連の騒動など、強ければよいという風潮が問題行動につながっている。
改革への取り組みは待ったなしだ。部屋任せでなく、北の湖理事長はじめ相撲協会全体として出直す覚悟が求められる。
高齢者が家族らから暴行や暴言などの虐待を受けるケースが後を絶たない。岡山県のまとめでは、二〇〇七年度に県内で高齢者虐待と認定されたのは三百五十四件に上り、前年度を六十四件上回った。
県内市町村の相談窓口に通報があった四百二十六件(前年度比二件増)について、市町村が調査した結果、明らかとなった。虐待を行ったのは、家族らが三百五十三件、介護施設の職員が一件だった。大半が顕在化しにくい家庭内で起きている。増加の裏には、市町村が虐待を幅広くとらえる傾向が強まったこともあるのだろう。
虐待の内容(分類が重複するケースを含む)では、殴るけるといった身体的暴力が百九十四件と最も多く、暴言を吐くなどの心理的虐待が百三十六件、財産を勝手に処分するなどの経済的虐待が百三十四件、介護・世話の放棄が百四件と続く。
〇六年度から高齢者虐待防止法が施行され、虐待を発見した場合は市町村への通報が義務付けられたほか、市町村に家庭などへの立ち入り調査権限も持たせた。問題は、虐待に遭っている高齢者をどう発見し、どう対応していくかだろう。高齢者が安心して地域で暮らせる体制づくりが求められる。
虐待の背景には、介護疲れによるストレスや孤立、生活困窮などさまざまな要因を指摘する声がある。虐待防止には被害者の救済だけでなく、介護する家族の側の精神的・肉体的負担を少しでも軽減する取り組みも欠かせまい。
高齢社会の進展とともに、事態がさらに深刻化する懸念もぬぐえない。自治体や町内会、ボランティア団体など関係機関の連携を強化し、虐待を予防する目としての地域ネットワークづくりを進める必要があろう。
(2008年8月22日掲載)