WAKMARCH 日東専駒 大東亜帝国から「学ぶ力は生きる力、生きる力は学ぶ力」へ


大学受験・進学60年史
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大学を見る確かな目 学事出版連載企画

受験コピーの創造主が語る大学入試の変遷

WKMARCH、日東専駒、大東亜帝国の図表

―代田さんは大学入試の名コピーライターとしても知られていますが、どのようなことから始められたのですか。

代田 私が旺文社に入社したのは昭和32年で、受験生のバイブルと言われた『螢雪時代』の編集を長い間やっていました。そんな関係で、「日東専駒」などの造語を、当時の大学受験文化に対する一種の遊び心で作ったのです。大学が大衆化されるなかで人気大学が変わっていくのはなぜだろうかと考えているうちに、出てきたコピーなんです。別に偏差値でグループ分けしたわけではありません。

―時代とともにどのように人気大学が変わってきたのでしょうか。

まず昭和30年代は「WKMARCH」ですね。これは、早稲田・慶應・明治・青山学院・立教・中央・法政の7大学。ちょうど高度成長期突入の時代で、猛烈競争の世の中ですから、受験生もこれらの難関大学に積極的に挑戦していったのです。

昭和40年代になると進学率が上がり、特に女子の進学率の上昇が目立つようになりました。43年の『経済白書』には「国際化」という言葉が初めて登場し、受験生も女子を中心に上智・青山学院・立教といったミッション系に人気が集まりました。海外旅行でJALパックが流行り、受験界では私が言う「JARパック」の人気が高まったのです。

大学の人気に社会状況が反映

―大学受験の動向は社会変化や経済状況に大きな影響を受けているということですね。

代田 そうです。昭和50年代に突入すると、大学数・受験者数ともかなり多くなり、大衆化の兆候を見せ始めました。社会のトレンドは、「脱猛烈、豊かさ志向」に変化し始めています。受験生にも猛烈チャレンジ志向から実力相応校を受ける、いわゆる"フィットネス志向"が強まりました。そこで「日東専駒」が出てきました。正確に言うと、「日東専駒成成神」(日大・東洋大・専修大・駒沢大・成蹊大・成城大・神奈川大)です。

平成の時代になると、大学数も受験者数も急増し、大学受験はまさに大衆化、成熟化に拍車がかかりました。平成元年の『経済白書』の表題は、「平成経済の門出と日本経済の新しい潮流」です。受験界にも新しい潮流、トレンドが現れ、"楽(らく)して楽しむ豊饒時代"の志向が強くなりました。受験生の大学に対する意識は大きく変わり、大学をイメージ商品に近い感覚で選択するようになりました。人気大学としては「大東亜帝国」(大東文化大・東海大・亜細亜大・帝京大・国士舘大)グループが浮上しました。

受験生が「RENTAL症候群」に

―そういう受験生の意識変化に対して、どのような感想を持ちましたか。

代田 社会でも"レンタル"が流行り始めた時期でしたが、受験生の大学選択の基準もアスピレーションの冷却による借り物的になりましたね。

そこで受験生の行動基準を「RENTAL症候群」というネーミングにしたわけです。RはRiskless(危険回避・安全志向)、EはEnergy-saving('省力)、NはNearby(近場志向)、TはTogetherness(均質集団同一行動=輪切り出願)、AはAmenity(快適志向)、LはLooks&Location(見栄えと立地条件)ということです。

多くの受験生に、没自我、没個性、無目的、無感動、安全志向、挑戦回避などの傾向が強くなった、というのが私の実感です。

―その後の動きについてはどうでしょうか。

代田 大学受験者数は平成4年をピークに減少期に入りました。大学は広き門になり、受験生が大学を選び、学生が大学の主人公になる「受験生消費者」「学生消費者」「The Buyers'Market」の時代に向かっています。すでに短大を中心に定員割れになっているところもあります。今後、大学間では減少する受験生のパイをめぐり、熾烈な奪い合いが展開される一方、"偏差値崩壊"が進んでいるのも事実です。

ユネスコの「学びの四本柱」

―このような時代に、どのような視点を持つべきでしょうか。

代田 やはり大切なのは、学びの原点に立ち返ることだと思います。ユネスコの『21世紀教育国際委員会報告書』では21世紀教育のキーワードを「生涯学習」として、学びの四本柱を具体的に示しています。つまり、「知ることを学ぶ」(learning to know)、「為すことを学ぶ」(learning to do)、「共に生きることを学ぶ」(learning to live together)、「人間として生きることを学ぶ」(learning to be)です。私は、大変感銘を受けました。

現在の教育荒廃の一因は、明治以来の学制を踏襲した学校教育の制度疲労、と言ってもいいのではないでしょうか。"20世紀の特急教育号"は脱線したのです。しかも、いじめや学級崩壊などのきわめて憂慮すべき問題が未解決のまま21世紀に先送りされようとしています。ユネスコが提示した4つのグローバル・スタンダードについては、今後の我が国の教育改革でも真剣に考えて欲しいものです。

生涯学習の視点からの大学選び

―生涯学習の立場から見たとき、大学進学はどう考えられるでしょうか。

代田 私が『螢雪時代』に携わっていたころは、大学進学と言えば18歳受験者が中心で、しかも偏差値による大学選びが主流でした。とにかく大学に入学して卒業すればよしとする"大学一回通過型"が特色でした。

しかし、いま人々は心の豊かさや生きがい、そして新しい知識・技術の習得やリフレッシュを本格的に求め始めています。生涯にわたって学び続ける「生涯現役学習社会」の到来です。

私は、若者に対して、生涯学習の視点に立って将来の進路を考えるように訴えています。たとえばこれからの大学などにおける学習は、"一回完結型""一回洗礼型"で終わるものではなく、社会人になっても必要に応じ、再三再四、大学に戻る"リカレント型"になります。ですから、大学入試にあたっては、偏差値に縛られたり、極度の緊張や縮み志向にとらわれることなく、もっとグローバルな視点とゆとりのマインドで志望校を選択すること、そして学力については生涯にわたって学習を続けるための基礎・基本として確実なものにしておくこと、などをアドバイスしているのです。

最後に、「生きることは学ぶこと、学ぶことは生きること。生きることと学ぶこと―それはあざなえる縄のごとし」という言葉を贈ります。


『NEXUS』誌より引用
記事掲載時の代田氏の肩書きは「(財)日本生涯学習総合研究所専務理事」










【補足】
昭和50年代後半、首都圏の私立人気女子大として、

津田の東の本女にはセイント・フェリスの泉あり。大妻・実践・共立の昭和女の白百合は武蔵野跡に咲き乱る
(代田氏創作)

が流行したことを補足しておきたい。
(津田塾大・東京女子大・日本女子大・聖心女子大・フェリス女学院大・清泉女子大・大妻女子大・実践女子大・共立女子大・昭和女子大・白百合女子大・武蔵野女子大・跡見学園女子大<当時の大学名>)
  • 本女…ぽんじょ
  • 昭和女…しょうわむすめ

代田氏へのお問い合わせは下記まで
学び方研究会
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