「言わなきゃ損」意識が根底に?
《増大するモンスター患者》

 非常識な動機で学校に親が怒鳴り込むモンスターペアレンツはテレビドラマの題材になるほど。似た現象は医療機関でもある。愛知県内の病院で「モンスターペイシェント(怒鳴り込み患者)の実態を調べた。(健)
■医師ら半数に暴言、暴力被害 尾張北部の公立病院。ことし4月に院内で行ったアンケートでは医師や看護師の約半数が何らかの暴言・暴力を受けていたことが判明。以下は主な内容。
 通院患者が予約をせずに休日に来院。担当医が休みにもかかわらず「(担当医と)面談させろ」としつこく要求。
 患者の家族数人が廊下に座っていたため、医師が注意したところ逆切れして居直られた。
 死亡した患者の家族が「おまえを医者とは思っていない」と発言。
  クレーマーの特徴として副院長は「医師が一生懸命治療を行っても、患者が亡くなってしまうと医師も責任を感じて精神的に引き気味になる。クレーマーはそこに付け込む」と説明した。
 8歳の男児が骨折したケースでは治療後の骨が少し曲がっていることに対して「骨折する前と同じ状態に戻せ」と母親がクレーム。副院長は「骨折したら多少変形が残るのは仕方がない。(一部の患者やその家族は)当たり前のことが理解できない。事前にそこまで説明するのは難しい。ただし患者も不満が一つだけでは文句は言わない。三つくらいたまってから爆発する」と話す。
 結局、この母親はスポーツドクターの話を聞いてしぶしぶ納得したという。
 苦情を穏便に解決するため、同病院ではことし4月から、調停役を担う「メディエーター」を配備。初代メディエーターを務めるのは若松洋子さん(36)。実は9年前までは同病院の看護師だった。
 若松さんは「病院側と患者側双方の話を正確に聞き取るが、あくまでも仲立ち。白黒を決めてはいけないので難しい」と話す。正確に記録を取る点では看護師時代と似た作業だ。
 メディエーターには洞察力も求められる。「金が目的なのか、難癖をつけたいだけなのか。主張の裏に何があるのかをくみ取る能力が必要」(若松さん)。
 「医者の態度が悪い。でも本人には伝えないで」―。名古屋市内のある病院のケースでは苦情の手段として利用されるのが電話。それも医者に面と向かって言うのではなく、わざわざ担当者がいない時間外に病院へ電話をかけてくるという。
■待合室から119番 電話は苦情だけに使われるわけではない。タクシー代わりに救急車を呼ぶ患者がいるのも事実。119番通報では詳しい病状まで確認できず、救急車は出動せざるを得ないのが現状。長い待ち時間が嫌で、待合室から救急車を呼んだというとんでもない患者もいたという。そういう患者に限って症状は重くない。先日、全国の救急患者の約8割が軽傷だという事実も明らかになった。
 同病院スタッフは「苦情の多くは診療内容に対するもの。今は権利主張の時代。言わなきゃあ損だという考えがクレーマーの中にあるのではないか。我慢できない人が増えた気もする」と分析。
 尾張北部の公立病院副院長は「患者やその家族との風通しを良くすることが大事。医療スタッフ、患者双方にとって快適な環境づくりが必要」と厳しい表情を見せた。
 「病院は本来、病人がいるところ。院内でもめている場面を患者が見て、気分がいいはずはない」と話す若松さんは今日も院内の環境づくりに奔走している。


(2008年8月22日更新)


22日のニュース



コラム



サイト内検索


AND OR
このページの著作権は社団法人名古屋タイムズ社に属します。無断での複写、転載を一切禁じます。
Copyright(C)2008 The Nagoya Times All Right Reserved.