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【スポーツ】

レスリング55キロ級 吉田連覇 48キロ級 伊調千は銀

2008年8月17日 朝刊

女子55キロ級で連覇を達成し、栄コーチに肩車される吉田沙保里=16日、中国農大体育館で(鵜飼一徳撮影)

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 【北京五輪本社取材団】北京五輪は九日目の十六日、レスリング女子55キロ級でアテネ五輪覇者の吉田沙保里(綜合警備保障)が二大会連続優勝を遂げた。女子の五輪連覇は柔道の三人以外では初めて。48キロ級の伊調千春(同)は前回に続いて銀メダルとなった。日本選手の金メダル獲得は七日連続で、今大会七個目。自転車男子ケイリン決勝では永井清史(日本競輪選手会)が銅メダルに。ケイリンが正式種目となったシドニー以来初めてのメダル獲得となった。陸上の男子百メートル決勝で、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が9秒69の世界新記録で優勝した。

 五輪決勝で百メートルの世界記録が塗り替えられたのは、一九九六年アトランタのドノバン・ベーリー(カナダ)以来、三大会ぶり。

 競泳は、女子二百メートル背泳ぎ決勝で中村礼子(東京SC)が2分7秒13の日本新記録で前回に続く銅。日本女子競泳選手の二大会連続メダルは、二百メートル平泳ぎの前畑秀子が、一九三二年ロサンゼルスで銀、三六年ベルリンで金を獲得して以来七十二年ぶり。男子百メートルバタフライではマイケル・フェルプス(米国)が優勝し、七二年ミュンヘン五輪でマーク・スピッツ(米国)が記録した一大会七個の最多獲得金メダルに並んだ。

 日本選手として五十六年ぶりに陸上女子百メートルに出場した福島千里(北海道ハイテクAC)は一次予選で敗退。男子二十キロ競歩決勝は山崎勇喜(長谷川体育施設)が五輪競歩の日本選手最高の十一位となった。

 卓球の団体戦では、日本女子が三位決定予備戦二回戦で香港を破り、銅メダルを懸けて十七日に韓国と対戦する。準決勝でドイツに敗れた男子は三位決定予備戦二回戦へ回る。

 野球は一次リーグで韓国と対戦し3−5で敗れ二勝二敗となった。バレーボール男子は一次リーグA組で、日本は0−3でベネズエラに敗れ、四連敗で一次リーグ敗退が決まった。

『あの一敗』から世界の頂点

 世界の頂点に立っても泣いたことのない吉田沙保里が涙した。日の丸が一番高く、揚がっていく。「本当に苦しかった」。表彰台では、この七カ月の日々が思い出された。

 「無敵の女王」の敗戦は突然やってきた。今年一月、中国・太原でのワールドカップで無名選手に敗れた。二〇〇一年十二月から積み重ねてきた国内外の連勝が一一九で途切れた。外国人相手に限れば、十三歳で国際大会に出場して初めての敗戦だった。

 泣き崩れた。外国選手に負けなしが「生きがい」とまで言ってきた。しかも得意のタックルを返された。目をつぶると返されたシーンがグルグル回る。眠れぬ日が続いた。

 ぽっかり空いた心の穴を埋めてくれたのは周囲の人たち。母幸代さんは語りかけた。「あなたに負けた百十九人も悔しい思いをしているんだよ」

 記憶を手繰れば、涙に暮れた太原の試合会場で肩をたたいたのは国内の好敵手、坂本日登美。「北京で金を取ればいいんだから」。吉田に五輪出場の夢を奪われた相手だった。

 当時、五輪出場が土壇場に追い込まれていた柔道の井上康生さんからもメールが届いた。「おれが言える立場じゃないけど、頑張ろうな」。短いが、気持ちがこもったメールに心が熱くなった。

 三重県津市の実家では、父栄勝さんが教える自宅のレスリング教室で、子どもたちが怒られ、泣きながら、相手にぶつかっていく姿をみつめた。五歳で初めて出場した小さな大会は負けた。競技人生は負けから始まったことも思い出した。

 この日、日本チームの栄和人コーチが、敗れたワールドカップの銅メダルを会場に持ち込んだ。内緒で持ってきた悔しいメダル。試合前に吉田に見せて言った。「この悔しい思いを晴らしてくれ」。吉田は黙ってうなずいた。あの悔し涙から二百十日。いま、うれし涙にかわった。 (高橋広史)

 吉田 沙保里(よしだ・さおり)鋭いタックルを武器に04年アテネ五輪金メダル、世界選手権では5連覇を達成。1月のW杯に敗れるまで119連勝していた。父の栄勝さんは元全日本王者。中京女大出。156センチ。25歳。三重県出身。 (共同)

 

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