【井上康生】乗り越えられなかった重圧

　実力も実績も格上の鈴木が２度も背中から畳に落ちた。技術的な敗因は組めなかったこと。相手の出足を止める得意の足技も、組んでこそ威力を発揮する。チームの大黒柱、日本選手団主将としての責任感。すべてを背負う覚悟はしていても、結果として乗り越えることができなかった。僕も同じことをアテネで経験したから、彼の胸の内は分かるつもりだ。

　ここまで男子のメダルは内柴の金だけ。敗れた選手は、いずれもパワー重視のレスリングスタイルに屈した。必要なことは、徹底的に敗因を分析し、基礎から鍛え直すこと。土台を固めれば、どんなスタイルにも対応できる。パワー全盛だからこそ、一本にこだわる柔道は忘れないでほしい。

　（シドニー五輪１００キロ級金メダリスト）