早い話が

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早い話が:口パク少女の脱毛歌=金子秀敏

 北京五輪の開会式をめぐるびっくり報道が続いた。足跡花火の中継映像がコンピューターグラフィックスによる「偽造」だったと英国紙がスクープ。続いて、愛国歌を歌った少女が口パク「偽装」だったと中国のラジオ局が暴露した。

 米国紙は、56民族の衣装を着た子どもたちが、実は少数民族ではなく漢族の子だったと報じた。どれも報道五輪のメダル候補だろう。

 少数民族の子を使わなかった演出は「偽装」ではなく「仮装」だ。なぜなら、演出担当者には観衆をだます「偽装」意識はなかったはずだ。いくら民族衣装を着ていても、少数民族の人が見れば漢族であることは一目瞭然(りょうぜん)だからである。

 担当者は、米紙に「可愛い子を選んだだけだ」と説明している。何が悪いのかと言いたげだ。漢族に少数民族の衣装を着せて「仮装」させたほうが見栄えがいいと信じている。少数民族に対する差別意識を自覚していない。

 口パク少女が歌った愛国歌を聞いた時に、「あれっ?」と思った。歌詞が改作されている。あの歌は「祖国を歌う」という、文革時代の有名な毛沢東賛歌である。

 「五星紅旗は風にはためく、革命の歌声は響く……」「我が社会主義の祖国を歌おう……」「我らの偉大な指導者・毛沢東、我らを導き前進させる……」だったはずである。

 なのに少女の歌(実はかげで別の少女が歌った)は、「革命の歌声」が「勝利の歌声」に、「社会主義の祖国」が「親愛な祖国」になっていた。「偉大な指導者・毛沢東」も消えていた。脱毛沢東化、脱イデオロギーである。「可愛い」「見栄えがいい」ためだろうか。

 開幕式の数日後、華国鋒元首相の病状が悪化、20日死去した。今では過去の人だが、文革の末期、毛沢東が死ぬと四人組を追い落として権力を握った人物だ。間もなくトウ小平ら改革派に権力の座を追われた。それなのに、その後も党大会になると議長団の一角に席を占める。不思議な人物だった。

 容姿が毛沢東に酷似している。中国共産党史に詳しい中国人の知人は「毛沢東の落とし子だ」と言っていた。華氏という存在によって、毛沢東時代は細々と続いたことになる。

 いずれ歴史の真相は明らかになるだろう。その前に少女の歌う愛国歌から毛沢東が消えたのが象徴的だ。(専門編集委員)

毎日新聞 2008年8月21日 東京夕刊

 

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