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大野病院医療事故:捜査見直し発言も 無罪判決に反響 /福島

 県立大野病院(大熊町)の医療事故を巡る公判で、福島地裁が20日に無罪判決を出したことを受け、21日も吉村博人・警察庁長官が今後の医療事故の捜査に慎重姿勢を打ち出すなど反響が広がった。

 福島地裁は判決で検察側の立証の甘さを指摘し、被告の加藤克彦医師(40)に無罪を言い渡した。吉村長官は21日の会見で、「判決を踏まえながら医療事故の捜査について慎重かつ適切に対応していく必要がある」と述べた。

 今回の事故では、手術での医療判断に刑事責任が問われ、医師の身柄が拘束されたことに医療界が強く反発した。捜査当局は「証拠がほとんどなく関係者の証言が頼りで、口裏合わせの可能性もあった」と逮捕の理由を語っていたが、元長崎地検次席検事の郷原信郎・桐蔭横浜大法科大学院教授(経済刑法)は「いつでも身柄を取れるというのは捜査機関の独善的な考え方。医師は患者を抱えており、明白な過失がないなら身柄を拘束すべきでない。今回のケースは捜査機関の介入自体に無理があったのではないか」と指摘した。

 医療界からは、日本産科婦人科学会が20日に「重篤な疾患を扱う実地医療の困難さに理解を示した妥当な判決。医療現場の混乱を一日も早く収束するよう、検察が控訴しないことを強く要請する」との声明を出した。全国保険医団体連合会も同日、「無罪判決に敬意を表する。医療事故の被害を速やかに救済するため、第三者機関の設立と無過失補償制度の創設を改めて要望する」とコメントを発表した。【松本惇】

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 ■解説

 ◇「医療の責任追及」に影響

 地方の産科という医師不足が最も著しい現場で起きた大野病院事件は、「医療崩壊」の象徴として、医療界からかつてない注目を集めてきた。福島地裁は、争点になった胎盤はく離継続の判断に過失はなかったと結論付けたが、リスクを抱えた手術に取り組む多くの医師にとっては、逮捕、起訴自体が衝撃的だった。今回の無罪で警察・検察の捜査への批判も強まるとみられ、医療事故の真相解明と責任追及の在り方を巡る議論に大きな影響を与えそうだ。

 産科医が減り続けている原因は、勤務の過酷さに加え、訴訟リスクの高さにあると言われる。大野病院には加藤医師以外の産科医がおらず、しかも事件になったのは非常にまれな症例だ。医師側が「通常の医療行為で患者が死亡しても刑事責任を問われるなら、医療は成り立たない」と危機感を持ったのは当然とも言える。一方、患者としては、病院側の対応に納得がいかなければ、真相解明を司法に頼るしかない。「代替手段がない以上、医療事故に捜査当局の介入も必要だ」と被害者側は訴え、当局もそれに応えざるを得ない。

 医療行為の責任追及については、警察・検察内部にも「本来は専門家が判断すべきだ」との声がある。国は事件を契機に、医療の専門家を中心とした死因究明の第三者機関「医療安全調査委員会」の設置をめぐる議論を進めた。刑事訴追が医療の萎縮(いしゅく)や医師不足を招くのは、医師と患者双方にとって不幸だ。互いが納得できる制度の整備が急がれる。【清水健二、松本惇】

毎日新聞 2008年8月22日 地方版

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