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社説:終戦記念日 日本独自の国際協力を

 英「エコノミスト」誌の調査部門EIUが「平和度指数」を算出している。日本は昨年に続き5位という高い評価だ。ちなみに1位はアイスランド。北京五輪開催中の中国は67位、米国は97位である。

 順位の妥当性には議論がある。大事なのは、平和を日々確かなものにしていく努力であろう。そのために不可欠なのが歴史から学ぶ姿勢だ。終戦記念日はその好機である。

 終戦の詔勅がラジオから流れた日の1年後、昭和21年8月15日の毎日新聞は、終戦時の首相、鈴木貫太郎へのインタビューを掲載している。

 鈴木は日本に降伏を迫る連合国のポツダム宣言に対し「黙視」で応じた。返事しないというのだ。その結果「ソ連の参戦を早め、広島、長崎へ原爆を使用する機会を与えてしまった」と鈴木は悔やむ。ポツダム宣言は7月26日。日をおかずに受諾していれば、と誰しも考える。

 首相就任以来、早期終戦を使命と心得ていたのに、なぜ逡巡(しゅんじゅん)したのか。鈴木はこう語っている。

歴史から学ぶ姿勢

 「もしあの時、私が講和する絶好の機会であるとでも言ったら、私は当然殺されていただろう」。殺されるのはいいが、目的を果たせないのは耐えられない。「黙視」は「拒絶」ではなく宣言を受諾する含みを残したのだ、と。

 終戦を急げばテロにあっていた。鈴木にとって、それは議論の余地のない「事実」だったに違いない。2・26事件で襲撃され九死に一生を得た人である。

 世界中でテロが続発しているが、日本にも「テロの時代」があった。その事実を学ぶべき歴史の筆頭におくべきだろう。

 戦後の学校教育は現代史に時間を割かなくなっている。太平洋戦争にかかわる史実も学ぶ機会がない。これは改善すべき課題だ。

 ソロモン諸島のガダルカナル島では、太平洋戦争で最も過酷な戦闘のひとつが行われた。それを知る若者は多くあるまい。戦闘もさることながら、兵士たちは逃げ込んだ密林で悲惨極まりない飢餓に襲われ、島を「餓島」と呼んだ。

 政府はこの島に近々、国際協力の要員を送る。オーストラリア主体の平和維持部隊への文民参加だ。産業振興や立法基盤の整備が任務である。

 かつて、ガダルカナル戦の目的は米国と豪州の連絡を遮断することにあった。今回は逆に日米豪の協力をアピールする。激戦の島の今昔の対比が鮮烈だ。

 私たちは日本が国連平和維持活動(PKO)など、国際協力に積極的に参加すべきだと主張してきた。一国平和主義から脱して、世界の平和に責任を分担すべきだろう。だが、国際協力と対米協力は区分けする必要がある。

 イラクへの自衛隊派遣は人道支援の建前だが、実際は対米協力色が濃い。北朝鮮問題での日米連携を期待した。しかし、米国は北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除に動き、日米に亀裂が生じたのが現実だ。

 金融危機に陥った米国の銀行は産油国やアジアの政府系ファンド(SWF)の出資で息をついた。米国は軍事的には唯一の超大国だが、経済的にはもはやそうでない。そして、米国の軍事力で解決できる問題が少なくなっているのが、戦後世界の新しい現実だ。

 米国との同盟は日本外交の基軸であり、同盟を確かなものにする努力を怠ってはなるまい。しかし、それは何もかも米国に追随することを意味しない。ことに、平和維持への国際協力ではそうだ。対米追随では評価されず、日本の国際的地位も高まらないだろう。

中級国家の連携論

 ルワンダの国連平和維持部隊司令官だったカナダのロメオ・ダレール上院議員は「ミドル・パワー(中級国家)の連携」を提唱する。カナダ、ドイツ、日本など政治的野心のないミドル・パワーが結束し、国連安全保障理事会を動かし、紛争収拾に積極介入していこうというものだ。

 長期的には日本は人口が減少し、相対的経済力も低下する。ミドル・パワーの連携で「保護する責任」を果たそうというのは、検討に値する。だが、実際にそこまで踏み込むのは困難だろう。危険な任務が予想され、多数の殉職者がでる可能性がある。集団的自衛権の行使を禁じる憲法に抵触するとの解釈もある。

 この提案を採用すべきだというのではない。このようなダイナミックな議論が日本で行われなくなっていることを惜しむのである。世界は石油と食料の高騰におびえ、国際協力を忘れて国内保護に走っている。懸念すべき「内向き」の風潮だが、日本もその弊を免れていないようだ。

 「平和学」の第一人者、ノルウェーのヨハン・ガルトゥング教授は、日本人は7年間の占領期間を通じて米国と「特別な関係」を作り出し「日本は米国に選ばれ守られている民」と考えるに至ったという。

 手厳しい指摘ではないか。確かに日本の対米依存は骨がらみだ。困難でも自前の国際協力のあり方を構想する時期である。

毎日新聞 2008年8月15日 0時23分

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