東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

グルジア 冷戦の轍を踏むのか

2008年8月22日

 グルジア南オセチア自治州へのロシア軍侵攻をめぐり、米国とロシアの確執が激化している。カフカス諸国の民族紛争の火種を冷戦思考のまま飛び火させてはならない。

 ロシアのメドベージェフ大統領は欧州連合(EU)議長のサルコジ仏大統領に対し二十二日までの軍撤退を表明している。撤退の完全実施を望みたい。

 ロシア軍がグルジアに侵攻して以来、米国とロシアの外交的対立は激化の一途だ。米国はこの機に乗ずるようにポーランドとのミサイル防衛(MD)協定に調印し、グルジアに北大西洋条約機構(NATO)加盟をあらためて確約した。

 ロシアは急遽(きゅうきょ)ベラルーシとの防衛強化政策を打ち出し、中東シリアとの協力姿勢も示している。不信を露(あら)わにした相互牽制(けんせい)は、あたかも冷戦の再来を思わせる。

 欧州の旧ソ連圏諸国が次々離れていくロシアの危機感はこの二月のコソボ独立宣言で臨界点に達していたといえる。ロゴジン・ロシアNATO大使が米主要紙に寄稿した対米批判記事の題名「アメリカの偽善」は、ロシアの本音を端的に表している。

 冷戦終結後十九年、国際関係は大きく変わった。終結直後に紛争予防から平和構築の機能を果たすかに見えた国連への期待感は吹き荒れた各地の民族紛争の前に萎(しぼ)み、米中枢同時テロ後の米国一極主義は今大きく揺れている。

 南オセチアを含むカフカス地方は欧州、ロシア、トルコ、イランなど大国の緩衝地域として翻弄(ほんろう)された歴史を背負っている。民族、宗教が交錯し、一歩対応を誤れば、紛争が周囲に一気に広がる危険性はバルカン以上ともいえる。カスピ海の原油をめぐる権益が事態を一層深刻にしている。

 グローバル化した世界が直面する問題は今や米ロだけでは解決できない。中国、インド、イランなど諸大国の台頭という新しい現実を踏まえた紛争解決への取り組みこそ急務ではないか。

 歴史的な出来事はしばしば同時に起こる。一九五六年のハンガリー動乱はスエズ動乱と、一九九一年のバルト諸国侵攻は湾岸戦争とほぼ同時発生した。いずれも旧ソ連軍による民主化阻止の試みだった。世界の耳目が集まった北京五輪開会式当日にロシア軍が侵攻したのは偶然だろうか。

 武力のみによる紛争解決は持続しない。冷戦の轍(てつ)を踏んではならない。

 

この記事を印刷する